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「離せ! 離せよ!」
雨に濡れたアスファルトに押さえ付けられ、対ウィルス防護プロテクターを装備した大人達に拘束されていた。煙草一本のせいで。奴らの顔を覆ったシールドは、表面がヌメヌメと虹色に光り、表情が見えなかった。
腕を捻り上げられ顔を上げた。そこには紫色のソバージュで顔の右半分が隠れていても美形だと思える男が立っていた。
防護プロテクターを着ていないケイアンなんて見た事も聞いたこともなかった。思い返してみれば、こいつらは何処にも警視庁公安部治安維持部隊のマークを付けていなかった。
――なんなんだ、こいつら!
「シガーパスは見せただろ!」
煙草の喫煙と購入。そして所持にも煙害賠償責任保険への加入と身分を証明するシガーパスが必要だった。オイラのは病気の爺ちゃんの望みを叶える為に手に入れた偽造品だけど。
「君さ。どう見ても14、5ってとこだよね」
ソバージュの男は左手に持った花柄のステッキで、オイラのボロボロのウレタンマスクを外すと覗き込んできた。
――感染が怖くないのか?
「お前らケイアンじゃないだろ! いいのか、こんな事して!」
ソバージュの男はゆっくりと煙草を吸い始めると、煙をオイラの顔に吹きかけた。
「私は環境庁都市開発推進管理部の監査統括、朝比奈京志郎よ。拘束だけで、あっちみたいに反逆者にしたりしないから安心して」
白く煙り薄れてゆく意識の中で見えた男の右目に危険な輝きを感じた。
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