1 花嫁からお父様へ

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1 花嫁からお父様へ

「おめでとう!」 「おめでとーっ!!」 「末永くお幸せにぃ~ッ!!」  ジャコモ伯爵家と花屋の娘さんの結婚式が、幸せのうちに終わろうとしている。 「ナディア様!」 「ご結婚おめでとうございます。ジャコモ伯爵夫人様」 「ありがとうございます! ナディア様のおかげです!!」 「どうかお幸せに」 「はい! 私、絶対に幸せになります!!」  私はレンティス伯爵令嬢ナディア・ランツェッタ。  すっかり婚期を逃した行き遅れのミス・ランツェッタ。  だけど、私はとても幸せ。  なぜなら、私が付添人を務めた花嫁はみんな幸せに暮らしているから。10年を超える実績だ。そして今日、ついに50人目の花嫁を祝福している。  おかげで「レンティス伯爵令嬢に付添人を頼むと幸せな結婚生活が送れる」という噂が立ち、私は忙しくも幸せな日々を過ごしているのだ。  愛する人と結ばれる。    それこそが幸せ。 「ミス・ランツェッタ」 「?」  結婚式はたくさんの人が集まる、謂わば出会いの場。  行き遅れの私でも、毎回、声をかけてくれる男性がひとりかふたりか3人は、いる。今日もまた声をかけられた。 「プリミエ伯爵」 「やあ。元気でしたか?」 「ええ、この通り。先日はどうも。今日は素晴らしい結婚式ですね」 「まったくです。……それで、ミス・ランツェッタ。いや、ナディア!」  来た来た。 「麗しき我が女神! 私と結婚してください!」 「ごめんなさい」  これも、いつもの事。 「え!? ななっ、なぜ……私がお嫌いですかッ!?」 「いいえ。私は幸せな結婚となるかどうかを見抜く力を、神様から賜っているのです。プリミエ伯爵には私よりずっと相応しいお嬢様がいらっしゃいます」 「ナディア……!」 「幸せをお祈り致します。ごきげんよう」 「ナ……ナディアーッ!」  せっかく思い余って求婚してくれた男性の誇りを傷つけないように、常に自分を下げて、相手についてなにも貶さず、ただもっと相応しい女性がいる事を尤もらしく示唆する。  そうして求婚を断る事……39人目。  行き遅れ続けた私のために、血眼になって求婚者を見つけてくる父へのお断りを合わせれば、実に……80人くらい?  とにかく私、貴族とは結婚したくないのである。 「お帰りなさいませ、お嬢様」 「ただいま」 「いい結婚式になりましたか?」 「ええ。とって──」  執事に答えきらないうちに、父が階段を駆けおりて来た。 「も」 「ナディア! ナディア、求婚者はいたのか!?」 「ただいま帰りました、お父様」 「求婚者はいたのかッ!」 「プリミエ伯爵にお声がけ頂きましたけれど、お断り致しました」 「あ゛ぁぁぁぁぁっ!」 「旦那様!」  父が膝から崩れ落ちたので、階段から落ちかけ、執事が走った。 「旦那様!」 「お父様。気をつけて」 「なぜだ……なぜなんだ、ナディア……!」  執事が父をキャッチ。 「泣いてらっしゃるの? お父様、言ったでしょう? 私、貴族の男性とは結婚しません。ラウロとの結婚を許してくださらなかったのだから、ずっと、ずぅーっと独身でいいのです」 「ナディア……っ」 「お父様が力尽きたら、私、立派な女伯爵になってみせます。ご安心なさって。泣かないで、お父様」  幼い頃からレンティス伯爵に仕えて、今は立派なコックとなったラウロ。  使用人でもあり幼馴染の彼を、私は愛している。 「ひとり娘なのに……っ、くぅッ」 「いつも言ってますけれどラウロをクビにでもなさったら私、家出します。本気です」 「ナディ……はふぅ……っ」  泣くくらいなら、ラウロとの恋を認めてくれたらいいのに。  父は頑なに、私の幸せを祈ってくれない。憎たらしい。
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