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「莉花、ごめん。わたし莉花がそんな風に思ってたなんて知らなくて……」 莉花は綾海の言葉に耳を貸すつもりはないようで、言葉を遮るみたいに話し続ける。 「今日だって本当は忙しくて時間なんてないから来たくなかったけど、断れない雰囲気作ろうとしてさ、ほんと最悪。あんたって本当に昔から人の都合とか何も考えないよね? 習い事だってあんたの我がままのせいで何回休むことになったと思ってんの?」 一息に言い切った後に、一旦思い切り酸素を吸い直して、さらに莉花は言葉を続ける。綾海の視界はぐらついていて、すでに莉花の言葉は耳に入ってきてはいなかった。 「でもあんたにやっとあの頃のこと文句言えたから、ちょっとだけ来てよかったとも思うわ。多分咲良ちゃんって子も気が弱そうだからあの時のわたしと一緒で仕方なく断れなくてあんたと一緒に仲良くしてるだけだと思うから。咲良ちゃんにも言ってみたら? 『嫌なら嫌って言えばいいじゃん』って」 それだけ言い切ると莉花がハンドバッグを持って綾海のことを押しのけるようにして行ってしまった。 「咲良ちゃんには突然仕事が入ったとでも言っといて」 去り際に一言だけ残し、コツコツと大きなヒール音を響かせながら莉花は店から出ていった。まるでスコールにでも襲われたみたいに綾海の心は曇っていった。
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