第三章『梓沙』

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(俺はこれから…どうしたらいい……)  離婚の原因をつくった浮気相手の男と、母親が再婚するかもしれない。  逃げたい、と思った。母親のそばから逃げ出したいと。  だが、そんなことは無理だった。  逃げ出した先に、助けはない。  父親にも、新しい家族ができる。  父親の存在が、遠くなっていく。  ……自分の居場所が、どこにもないと感じた。 「っ…」  梓沙の肩に、ぽんと手が置かれた。父親の手だ。突然のことに驚いて、びくっ、と肩が跳ねる。 「…下まで、戻るか」  父親は優しく梓沙に微笑みかけて手を下ろす。二人は無言で、元来た道を歩き出した。
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