プロローグ

1/1
133人が本棚に入れています
本棚に追加
/211ページ

プロローグ

 目の前は真っ暗で、状況も何も分からない。そんな自身の体を襲うのは、下腹部の強烈な痛みだ。  硬い台の上に仰向けになって、両足を広げて固定されている。両腕も動かせず、完全に身動きがとれない。この痛みから逃れることができない。 ぼこっ、ぼこっ  腹の内側が強く蹴られた。 まるでそこから外に出たいというように、生き物が肉壁を何度も何度も蹴ってくる。 ものすごい違和感と、激痛。 悲鳴は声にはならない。 この先に待ち受けることを想像して戦慄く。 想像は、現実になる。 ぼこっ、ぼこっ、 ––––グチャッッ…‼︎  腹の内側の生き物が肉壁を突き破った。 小さな両手で腹の穴を広げるように、ブチブチと腹の肉が引き裂かれる。麻酔にかかったかのように不思議と痛みは感じなくなり、違和感だけが残る。 ずるっ  誰かの力で、腹の中から生き物は外に取り出された。 ––––…ぎゃぁっ……おぎゃぁっ、おぎゃぁっ  赤ん坊の泣き声がする。 やがて視界が、黒以外の色をぼんやりと写し出す。すぐ真横に立っていた人影がゆらりと揺れた。 「おめでとうございます、須藤さん。元気な女の子ですよ」  手術着姿の女性が、マスクから見える目元を三日月のようにして笑っている。 女性の不気味な笑顔から視線を移すと、その腕の中に抱かれた赤ん坊は、真っ赤な血に染まったまま産声を上げ続けていた。 おぎゃあっ、おぎゃぁ… 「お名前を、呼んであげてください」  女性に言われて、無意識に唇が開いた。 うっすらと開いたそこから声を絞り出し、 その赤ん坊の“名前”を、呼ぶ––––
/211ページ

最初のコメントを投稿しよう!