イカリング

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 ここで視点は浜崎に移る――。  ウルトラ、スーパー、スペシャル、デラックスと「超」などの意味を表す接頭語がいくつもつくほどの大富豪の娘が、婚約者の浜崎に声をかけた。  「浜崎くん。あなた」 「ん? ああ」  教室内を眺めていた浜崎は微笑みを婚約者に向けた。 「1人の人間を、言葉1つでお救いになったのね」 「ははは。イカリング。君への告白も、この言葉から始まった。僕は、君に片思いしているだけの自分自身への怒りが頂点に達し、怒りが君への告白への行動力となった。自分が自分に向ける怒りこそが行動力となる」 「特別変わった告白の熱意を感じました。この私が、見事に口説かれましたわ」 「相手の顔色をうかがう告白だったら失恋していただろう」 「そうですわね。照れや恥じらいを見せる前に、好きだという感情をぶつけられました」 「はい。君に一目惚れです。それだけだったな」 「付き合ってくださいではなくて、ね。一目惚れ? そうなんだ。なんだか嬉しくなりました。告白される側の私も、照れや恥じらいってものが、先には来ませんでしたよ」 「そこだよ」  浜崎は教室内に目を戻した。 「いきなり決定的なものを相手に求めると、相手は身構えてしまい、どっちが上か下かの計算で答えを出すようになる。それは悲劇を生む可能性を生むことになる。いじめも、そういうものなんだろう。とても難しいことかもれないけど、人同士がうまくやっていくには、引き分けになるような状況を作り出すことが最善の方法なんだと思う」 「素敵な方法であり、考えですわ。だから、私の心は、あなたの手に落ちたのです」 「あー、ははは。えーと、もう彼は大丈夫だね。では、次のステージに行こうか」 「はい」  浜崎弥一。逆玉の輿を狙って成功した男。ゆえに、世界を変える使命を帯びる男でもあった。ドドーン!(その背後に派手な火薬と爆発音が浮かぶ)  彼の婚約者はふと気づいたように言った。 「でも、イカリングって言いますけど……」 「うん?」 「それ、逆上ってことですよね?」 「△□◇――!?」 <おしまい>
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