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浜崎と別れ、自分の教室に向かう途中で、僕はあれこれ考えた。
>>>自分には何もできないと泣き寝入りして、何もしない自分に腹が立たないか?<<<
浜崎のこの言葉は鮮烈に僕の脳裏に焼き付いた。
そういえば、昔から、僕は事あるごとに泣き寝入りしてきた。
チャンスが目の前にあるのに、そんなのつかめっこないと目をそらして逃してしまい、後で後悔する。
僕は、薄れていかない悔やみの記憶の積み重ねをしていやがる。
胸の中でざわめくものを僕は感じた。
馬鹿野郎だ――!
僕は自分自身に激しい怒りを感じてきた。
教室に戻って席に着くと、僕は4人のクラスメートに取り囲まれた。
目の前の席の椅子がバンと横に蹴飛ばされた。
「おい。昼休みにコーシーぎゅうにゅうを買ってきてくださいって頼もう思ったのによお。どこ行ってたんだ?」
いじめっ子のリーダーの高田が僕の机の上にドシンと座り込んだ。
見下される威圧感と取り囲まれる圧迫感に、逃げられない。
でも、しかし、だ。浜崎と話をする前の僕ならここでビビってしまって、こいつらの言いなりだったが、僕は浜崎の言葉を思い出した。
怒れ。怒る。イカリング……はあ、やっぱり、この言葉、なんか気が抜けるな。
「コーシーのみてえ」
高田のこの滑舌の悪さ。何がコーシーぎゅうにゅうだ。酒でも飲んでろれつが回っていないんじゃないのか、こんちくしょう。
おっと、いけない。怒りは相手に向けたら、それは恨み辛みだ。疲れもするし争い事も大きくなってしまう。
僕は自分を取り巻く彼らが一体何者かを思い返した。
リーダーの高田は親が病院の経営者。新田の親は市議会議員。佐々木の親は役所勤め。左向の親はただのサラリーマンで、先の3人の手下という立場を確立していた。
僕の親もただのサラリーマンだ。
こんなのってさあ、強すぎる後ろ盾のある彼らに逆らったら親までとんでもない目に遭うのではないかって恐怖心で、身動き取れなくなってしまうのは当然だろう。でも、こんな彼らだって世界一の逆玉の輿をつかんだ浜崎の前なら――あの人の存在はあまりにも異次元過ぎて、参考にはなりません。
「こーしー」
「こーしー」
「こーしー」
「こーしー」
彼らは押し黙ったままの僕を盛んに囃し立てた。
しょがない。お金出してくれるなら買いに行くしかないか。腹立たしいけど。
「イカリング」
席を立とうとして、僕は思わずその言葉が出てしまった。
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