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ここのつめ
目を白黒させていると、唸り声が聞こえてくる。
「ごめん、アズくん」
「……?」
「僕のせいだ。あのとき、僕が心にもないことを言って君を責めたから……傷ついて、そんな勘違いをしてしまったんだね」
なぜ謝るのかがわからず首を振った。
「いえ、違います。俺は大丈夫です。櫻木さんが、こんな身体でも許してくれるなら、嬉しいんですけど……」
豊満な胸も、くびれも、柔らかな尻も脚もない。あるのは平らで肋骨の浮いた胸、薄い腹に掴み甲斐のない尻、そして無駄に敏感な肌と不要なものばかりだ。男の身体でもいいと言ってくれた櫻木に、そろそろ感謝を返したい。
「こんな身体だなんて言わないで。君は素晴らしいよ、どこもかしこも、僕好みだ」
ゆっくりと片瀬を腕の中から解放した櫻木が身体を起こす。同じように起き上がろうとする片瀬を仰向けに寝かせると、額に口づけを落とした。
「あのね、アズくん」
「はい」
「声が出るのは普通だよ。気持ちいいと声が出るんだ。僕もそう」
「……櫻木さんも?」
「もちろん。エッチなDVDなんかでも、そういう男優は多いだろう?」
「すみません、そういうのは……見たことがなくて」
「謝らないで。君に全部教えてあげられるのは僕にとってご褒美みたいなものだ。それからね、君はいやらしくないし、淫らでもない。僕を好きでいてくれるから、少し触っただけでとびきり気持ちよくなってしまうだけだよ?」
櫻木のことが好きだから。そう言われると納得してしまう。そのとおりだからだ。
身体は反応していたが、笹本に触れられても快感はなかった。どこに触れられても気持ちよくて恍惚としてしまったのは、櫻木相手のときだけだ。
「第一、少しずつ感度がよくなるようにって、身体を快楽に慣らしたのは僕の仕業だからねえ……いやらしいのは僕のほうだ。だけど、それについては謝らない。声が出てしまうくらい感じてくれて、僕はとても嬉しいから」
ただね、と前置く櫻木は、丁寧に片瀬の頭を撫でる。前髪の生え際へ指を差し入れ、後ろへ流すように手を動かした。
「あの日君に言ったひどい言葉は本音じゃない。無防備なアズくんがもどかしくて、低俗な言葉で辱めてしまった。許してほしいのは僕のほうだ……最低な恋人だ。すまない」
「っい、いえ、最低じゃないです、櫻木さんは最高の恋人ですっ、だから謝らないでください……!」
「本当? じゃあ君ももう謝っては駄目だよ。僕の最高の恋人なんだから」
悲壮感たっぷりの表情がころっと変化し、ニコニコと片瀬を見つめている。一瞬呆気にとられた片瀬だったが、櫻木に口で勝てないのはずいぶん前からわかっていたことだと思い出した。
「はい……謝りません。櫻木さんが最高だと言ってくれるなら」
「ありがとう、梓真。好きだよ。可愛い声をたくさん聞かせてくれる?」
「……が、頑張ります」
「身構えないで、素直に感じてくれたらいい。それと、全部教えるとは言ったけど、それを実行するのは僕だからね」
えっ、と素っ頓狂な声を上げた次の瞬間、片瀬は上擦った甘え声を喉で殺した。すっかり柔らかくなっていた股間のものに、櫻木が指を絡めたからだ。
「ほら、アズくん。喉を開いて。息をして?」
「……ぁ、う、っんん」
「そう……上手だね。いっぱい気持ちよくなっておいで」
「んん、ん」
おずおずと開いた唇に口づける櫻木は、もっと大きく開けて、とばかりに舌で優しくこじ開けてくる。従えば褒めるように上顎をくすぐられ、すぐに片瀬は恋人のくれるキスに夢中になった。
その間も若い性は手の中で揉みしだかれ、ぐんぐん形を変えていく。充血してずくんずくんと疼痛を訴える頃には、頭の中が射精欲でいっぱいになっていた。
「……ッは、あ、あぁっ」
「可愛いねえ……僕のキスが好き? 幸せそうな顔でとろとろになってて、嬉しいな」
「んぅ、ぁ、好き……っき、きもちい、です、あっ」
ふわっと握られて根本から先端までをゆっくり上下されると、今にも達しそうに腰が揺らめく。頭を櫻木の首元に埋め、ビクつく身体を押しつけた。
しかしふと、手も櫻木の身体も離れていく。
はっと目を開けると、男は片瀬の膝の間に腰を下ろし、薄っぺらい腹にキスをしたところだった。
「櫻木さん……?」
「うん、そのまま楽にしていて」
にっこりと笑み、男の頭が下がっていく。
まさか、と思った。だが片瀬は一瞬の逡巡のあと、制止したがる両手で強くシーツを握る。
櫻木の舌が、あふれた先走りを掬いとるように屹立を舐め上げた。
「ひぅ……っ」
「いい子だね」
素直に感じて、と言われたのを守っている片瀬を愛しげに見上げ、男はまるでおいしいものを頬張るみたいにそれを口内へ含んでいく。熱くて、唾液で濡れていて、とてつもなく気持ちいい。片瀬の手の甲はシーツを強く握るせいで血管が浮いた。
「あっ、さく……っ櫻木、さ……ッあんん」
すっぽりと口の中へ収められるばかりか、器用な舌が弱い裏筋をひっきりなしに往復している。声を堪えるだなんてできるレベルの快感じゃなかった。頭がおかしくなる。こんなの、正気でいられる気がしない。
じゅぷじゅぷと男の頭が上下しはじめると、片瀬の唇からはすすり泣くような嬌声がこぼれ出す。
「ん、んぅ、あ、待って、待って……っ」
「ん?」
「で、ぅ……出ちゃう……離し、……っねがい……」
口淫しながら双嚢まで手のひらで転がされ、もうどう気を逸らしたって放ってしまいそうだ。
震える手を伸ばして恋人の髪に触れる。すると片瀬をくわえたままじっと見上げてきていた男の目尻が、ふにゃっと垂れた。
「んーん」
何かを言った振動が若茎を刺激する。
息をのんだ片瀬は、次いで与えられた強い快感にのけぞった。
「っあ、あああ! なん、で……ッ」
「んん、……このまま出してごらん」
「……!? 嘘、あ、あ、っ~……」
濡れた唇が離れたのは一瞬のことで、すぐに硬く反り返ったものを含んでしまう。
さっきまでの心地よい愛撫とは違い、今度は射精を促すように吸いつかれながら、幾度も鋭敏な先端を舌でなぶられた。鈴口を尖らせた舌にぐりぐりとほじくられ、視界に星が飛ぶ。
「い……っい、いく、ホントに出ちゃ、ぁう、あ、……っ」
ガクガクと揺れる腰をしっかり抱えた櫻木が、爆発寸前の屹立を根本までのみ込んだ。喉を狭めて亀頭を締めつけられれば、抗う術はない。
声も出せず、駆け上がってくる精を吸い出されるままに吐き出す。視界はあふれる涙で歪みきり、強張った身体の自由は効かない。
怖いほどの快感だった。こんなものを何度も経験するのは無理だ、と思うくらいに。
「ぁ……あ、う……ああ……」
たった数秒の射精のはずが、もっと長く感じた。残滓まできつく吸い上げられ、身体の中にはもう何も残っていないような気さえする。
脚の間から櫻木が顔を上げる。汗ばんだ片瀬の額を手で拭い、髪をかき上げてそこにキスをしてくれた。
「アズくん、大丈夫?」
「はい……」
「ふふ、ぼんやりしているね。そのまま力を抜いていて」
「……?」
男の腕に抱かれ、向き合って横臥する形にされる。言われるまま脱力して身を任せていると、尻の狭間に触れられて我に返った。
「っ、あの、そこは……お尻……」
「ん? そうだね。ここに僕を入れさせてほしいんだけど、嫌かな」
「お尻に……櫻木さんを……?」
少なからずショックではあった。だが、言わんとすることをようやく完全に理解する。中まで、と言ったのは、そういうことだったのだ。少し考えれば想像つくことなのに、鈍い自分が恥ずかしい。
男女のセックスについては授業でやったからさすがに知識はある。女性器に男性器を挿入して射精するのがセックスだ。だから「抱きたい」と言われても、男同士でどうするのかがわからなかったが、なるほど、尻を使うのならある程度想像はできる。
片瀬はぐるぐると考えこんだ。心配そうに見つめてくる櫻木に申し訳なく思いつつ、丹念に考える。そして顔を上げた。
「嫌じゃないです。だけど、俺もしたいです」
「……何をかな?」
「櫻木さんの……さっきしてもらったみたいに、口で……」
「唐突だね……」
まさかそんなことを言い出すとは思っていなかったようで、櫻木は目を瞠っている。
「頑張らなくていいんだよ。はじめてなんだから、僕に任せてほしい」
「そ、そういうのではなく……何かしたいって思ってたんですけど、男同士でどうやってするのかわからない以上、下手なことはしないでおくのが一番な気がしてて……でも、大体わかりました。だから、……櫻木さんが嫌じゃなければ」
このまま尻に男性器が入るよう準備を任せてしまえば、もう片瀬にできることはない。だから挿入前に、櫻木のことを愛したかった。
「なるほど……わかったよ。じゃあ、こうしよう」
櫻木は服を脱いで全裸になると、ベッドに仰向けになった。そして片瀬を促し、自分の顔の横に膝をつくよう跨がせる。
「っ……は、恥ずかしい、です」
「やめる?」
「やめないですっ」
クスクスと笑う声が聞こえるが、片瀬は羞恥を今は忘れることにした。自分の感情云々よりも、目の前に差し出された、自分に欲情してくれている男根へ触れたい。
「無理はしなくていいよ。できる限りでいい。君にそこを触ってもらえるだけで僕は嬉しいから」
「失礼します……」
まじまじと櫻木の陰茎を見つめ、そっと触れてみる。濃い茂みから力強く勃ち上がるそれは太さも長さも片瀬のものとは段違いだ。太い血管は逞しく、しっかりと角度をつけて反り返った先端の形はカッコよささえ感じる。
「すごい、熱い……」
「そんなまじまじと見られると、少し恥ずかしいねえ」
「あ、すいません、じゃあ……」
唇を寄せ、つるんとした亀頭にキスをしてみた。途端、手で支えた茎がビクッと動く。背後からかすかに息をつくのが聞こえ、片瀬は嬉しくなって舌を伸ばした。
「ん……」
「ああ、アズくん……」
感嘆の溜め息が聞こえると興奮する。技巧なんてものはないし、どうすればよいのかはわからないが、恋人のものだと思うと愛おしくて、隅々まで好きに舐めしゃぶった。
雄の匂いにくらくらする。特に反応がいい先端を舌の表面で何度も舐めると、少し苦い先走りがいくらでもあふれてきて癖になった。味も嫌いじゃない。櫻木のものだから、かもしれないが。
「ん、……ん、んぅ」
「アズくん、楽しい?」
上擦った問いに、頭を上下することで答えを返す。楽しい。自分のすることで好きな人が快感を得てくれているなんて、最高ではないか。
はぐ、と太い先端を口内へ収め、どうしても余る根本の部分は手で扱いた。上顎のぼこぼこしたところに亀頭をこすりつけて吸うと、舌の上で昂ぶりがビクビクと跳ねる。もうすぐ射精してくれるかもしれない。嬉しくて、片瀬がすっかり夢中になったときだった。
「っ、ん、あ、あ……!?」
嚢の付け根から尾てい骨までを、濡れたものが一気に舐め上げた。反射的に頭を起こして振り返る。
「櫻木さ、っあ、何……」
「一生懸命舐めてくれるアズくんを見ていたら、僕も触りたくなっちゃってね」
「だ、っんん、駄目です、できなくなる……」
「いいよ。今のうちに休んでおいて?」
どういう意味かと問う前に尻たぶを左右に開かれた。濡れた筋道がすうすうと冷える。そこに視線を感じると、自分ですら見たことのない場所を至近距離で確かめられていることに羞恥がぶり返してきた。
「っ櫻木さん」
「いい子だね、そのままうつ伏せておいで」
「あ、っえ、……んッ」
櫻木は片瀬の背を押さえて再び四つん這いにさせると、後孔ににゅぐっと舌を押しつける。
そんな場所を舐めるなんていけない、と喉から悲鳴が迸りかけた。だが片瀬はぐっと制止をのみ、櫻木の下腹部へ顔を埋める。
こうして舌で恋人を愛でてみて、わかったことがある。これは愛情がなければできない行為だ。
たとえば目の前にあるものが櫻木のものでなければ、片瀬は頑として口を開けたくない。櫻木もそういった想いを抱いてくれているからこそ、片瀬の秘すべきところに口づけてくれているのだ。
後ろの窄まりを丹念に舐められながら、怒張を必死でしゃぶる。そのうち背後でパチンと何かを開ける音がして、温く、それでいてひどくぬめる液体をまとった何かが孔を押し広げ入ってきた。
「はぁっ……ぁ、あっ、なに、何……っ?」
「指だよ。大丈夫、痛いことも怖いこともしないから」
「んんぅ」
ぬめりを帯びた指が、ぬる、ぬる……っと出入りしている。生理的な忌避感は、いつしか縮こまっていた中心を、同じくぬるついた指に撫でられることで少しばかり紛れた。
「上手に力を抜けているよ。痛くないね。こっちの気持ちがいいほうにだけ、意識を向けてごらん」
「はい、ぃ……っん、あ」
二十一年間生きてきて味わったことのない感覚だ。ぞわっとするような、逃げたいような、でももっとしてほしいような不可思議さがある。
片瀬はもう櫻木のものを愛撫するだけの余裕はなく、それを片手に握ったまま脚の付け根に頬を押しつけ、項垂れていることしかできなかった。
くちくちと撫でてもらう男性器は気持ちがいいけれど、後ろの異物感と相殺されてしまうのか、反応はしても射精には至らない。ふうふうと呼吸を繰り返すばかりの時間にじっと耐えていると――腰の奥からじわんと奇妙な感覚が競り上がった。
「あ……あ……?」
「どうかした? 気持ち悪い?」
「いえ、ち……違、なんか……あ、っん」
頭を起こし、無意識に身体が逃げを打つ。
しかし櫻木はすかさず片瀬の腰を掴み、ずり下がった分を引き上げてしまった。
「逃げないで。ここを柔らかくしようね。僕が入っても痛くないように」
「っ、や……や、待って、お願い、なんか変、で」
「変? それは、ここかな?」
「あ、――ッ」
指先で腹側のどこかを押し込まれた途端、雷に打たれたように肢体が跳ねた。身体が自分の制御下を離れ、好き勝手しはじめたように心許ない。何が起こったのかもわからないのに、頭はさっきの衝撃が快感であると認識していた。
「い、今の、は……っ?」
「アズくんの中にある気持ちのいいところだよ。よかった、感じてくれて」
「そんな……だ、だってそこ、お尻です、俺は男ですよ……?」
「男の啼きどころってことだよ。ここが感じるなんて最高だよ……もっと可愛がってあげようね」
「え? あ、あっ、あぁっ」
ぬちぬちと襞を広げるように動いていた指が、嬉々としてさっきの啼きどころとやらをくじりはじめる。快感のスイッチを連打されると、指先にまで衝撃が何度もやってきて、身体の中に怖いほどの劣情が溜まっていった。
「いやっ、あ、駄目ですっ、あ、……っあ」
「駄目じゃないよ、気持ちいいね。中も上手にうねってきた……指を増やしてみようか」
「あ、はあぁ……っあ、んん、ひ、ぅ」
一度抜いた指にもう一本を添えて入ってくると、圧迫感に息が詰まる。だがそれも束の間で、揃えた二本の指にあの場所をこりこりと撫でられると、頭がおかしくなりそうに気持ちよかった。
「そ、そこっあぁ、だめ、だめっ、ぇ」
「可愛いね……すごいよ、前もビクビクしてきた。もう少し拡げても大丈夫そうだね」
櫻木らしい柔らかな物言いなのに、切羽詰まった様子を感じた。手の中にある屹立は一切愛撫できていないのに熱く脈打ち、先走りをこぼしている。
「怖くないから、息を止めてはいけないよ」
「あ、あーっ……あ、はぁあっ」
再度圧迫感が増したから、指が増やされたのだろう。そんなふうに冷静に状況を改められたのも数秒だった。
中でバラバラに指を泳がされ、小刻みに快感の源を叩かれた片瀬は頭を打ち振るう。生理的な涙と汗が散った。
「ぁあ、っん、あ……ふぁ、だめ……っいっちゃ、うぅっ、出ちゃうからぁっ」
「出すところを見せて。上手にいけたら、今度は僕のを入れてあげようね」
「いやっ……」
激しくなっていく手淫に抗いたくて、下肢へ手を伸ばした。透明な汁でしとどに濡れている自身をぎゅっと強く掴むと、怪訝そうに名前を呼ばれる。後ろで傍若無人に片瀬を酔わせていた指が止まった。
「も、もう、一人でいくの、やですっ」
「アズくん……?」
「俺ばっかり、で……さ、櫻木さんと、一緒がいい……っ」
喚くように言って、少しの刺激で爆発しそうな陰茎を必死で押さえこむ。
気を抜けば手の力を抜き、そのまま櫻木の目の前で扱き立てて白濁を吐き出したくなってしまう。ほんの少し風が吹いただけでバランスを崩し、深い渓谷に落ちていきそうな危うい状態だった。
「おねが、します、もう……っ」
「――可愛いが過ぎる。君のおねだりなら聞かずにはいられないだろう……?」
「あ、あ」
片瀬をころんと横に倒し、櫻木が身体を起こす。彼は自分の股間でそそり勃つものを握りしめ、悩ましげに眉を寄せて溜め息を吐いた。
「ふー……すまないね。あまりに可愛いから、どうにかなりそうだった。こんなに興奮するのははじめてだ」
「ぁ、入れてくれますか……?」
「ああ。僕と一緒がいいんだったね。……手をのけてごらん。あとは僕に任せて」
離せばすぐにでも達してしまいそうだが、恐る恐る指にこもった力を抜いていく。櫻木はすかさず片瀬の根本へ長い指をまわし、そこを強く締めつけた。
「うう……っ」
「苦しいね……でも、君の願いを叶えさせて」
吐精をせき止めたまま、男の大きな身体が圧し掛かってくる。一度射精させてもらった片瀬と違い、櫻木は一切快感を吐き出してはいない。そのせいか、かぶさってきた身体はひどく熱かった。
「肩を噛んでも、背中を引っかいても構わないよ。僕のことだけ、感じてて」
「んぅ……っあ、あ、……あ!」
自然と開いた脚の間、指で散々広げられたぬかるみに、育ちきった切っ先が触れる。それはぐぬぅ……っと狭い入口をこじ開け、ゆっくりと身体の中へ侵入してきた。
「は、入る、……入って、くる……っ」
「うん、そうだよ……僕が、アズくんの中に入ってる。上手だね、そのまま……っ」
「あぁ……っ」
少し奥へ進んでは軽く腰を引き、大きさに馴染んだらまた少し奥へ。そんなふうに最大限気遣われながらの挿入は、二人が汗だくになるまで続いた。
ぬるつく液体が、ねちゃっと肌同士の間でいやらしい音を立てる。ずっしりと苦しく、鈍く重い感覚が下腹にやってきた。
汗で濡れた恋人の背中にどうにかしがみついていた片瀬は、信じられない思いでつながった場所へ目を向ける。あれほど太く長いものが、本当に自分の中へ収まったのだろうか。
「ぁ、あ……入った……?」
「そうだよ。ここに……全部。僕の形になってるんだ、今の君は。アズくんは僕のだ」
先走りで濡れた下腹を櫻木の手が撫でた。生え際からへその下までを覆い、とんとんと優しく叩かれる。
今、自分の中に――好きな人がいる。
「――ッ……あ、やっ、ふんん……っ」
喜びがそのまま身体を変えていく。重く存在感を示すそれに絡みつき、ここにいて、と甘えているのがわかる。ただそこにあるだけで、腰が揺れるほどに気持ちがいい。
「……っ、アズくん? あ、……っ」
顎を引いて唸った櫻木の手に力がこもる。握ってもらっている片瀬自身に鈍痛が走るけれど、今はそれすら快感に変換されていた。
「ぁ、あ、気持ちい……っ櫻木さ、あ、あっ」
「ああ……僕も、気持ちいい。中がうねって、とてもきつくて……はぁ……っ」
心も、身体も、櫻木のことが好きで好きで仕方がないのだ。腹の中まで彼に懐いて、はしたなく蠕動している。圧倒的な太さと長さを欲しがって締めつけている。その反応は片瀬にすら制御できない。
「う、動い、て……っあ、櫻木さん、中、して、して」
「……っああ、わかってるよ」
「ひあぁっあ、あぅ、う」
ずるりと腰を引かれ、意識を失うかと思った。喪失感と切なさが込み上げてきて、無意識に立てた膝で男の腰をはさむ。櫻木が低く官能の声を漏らした。
「ああ……いい、アズくん。もっと感じてごらん……っ」
「はあぁっ、あ、んんっ」
リズムよく腰を前後され、大きなものに内壁をまんべんなくこすられる。指で幾度も可愛がられた啼きどころを亀頭が押し込むと、身体がバラバラになりそうな快感が押し寄せてきた。
欲情したものの付け根のさらに奥辺りに、寄せてきた快感が詰め込まれ、固まり、形を成していく。このままでは何か恐ろしいものが皮膚を突き破って飛び出してきそう――そんなふうに、片瀬が怯えを覚えたときだった。
「……っあ、あ、駄目、待って、待っ……」
「ん……っ?」
「い、いきそ、……あ、なんで、櫻木さんっ」
後ろを行き来する男を強く締めつけたまま、身体がガクガクと震えた。せき止めてもらっているものの根本で育った何か、恐ろしいものが、出口を失って体内で暴れている。
「いっ、くぅ……っ」
「出せないよ……っ?」
「やぁっ、あ、だっていく、出ちゃう、出……っああ、出ない……っいやぁ、あ」
飛び出したがる絶頂の証が、駆け上がろうとして、戻って、また駆け上がろうとした。その繰り返しはやがて大きなうねりとなって――ついに爆発する。
「いやっあ、あああ――っ」
「あ、アズくん……っ」
何がなんだかわからなかった。襲いくる感覚はじっと味わえるような代物ではなく、頭で考えるより早く身体が暴れ出す。しかし男の身体で押さえこむように抱きしめられ、片瀬は深すぎる快感の波が去るのを、悲鳴を上げてビクつきながら待つしかなかった。
「アズくん、アズくん……大丈夫?」
「あ……? あ……さくらぎさん……?」
「そう、君の恋人だよ。わかる?」
こくんとうなずくと、半開きになったままの唇へキスをされる。ぼんやりと呆けながらも精一杯舌を伸ばして応えた片瀬は、遅まきながら自分が達してしまったことを悟った。
櫻木に押さえてもらっていたのにと、下腹部を覗いて瞠目する。そこには苦しそうに赤くなった自分のものと、指の輪で締めつけている櫻木の手があったからだ。
「なんで……っ?」
「中だけで気持ちよくなれたんだよ、アズくんは」
「中だけ……」
「そう……最高に可愛かったよ。もっといい顔を見せて、アズくん。お願いだ。ここから出してしまうアズくんも、見たい」
「んんぅっ」
先端の切れ目を悪戯に撫でられて腰が浮く。そうすると中の櫻木がまた違うところを押し上げて、肉筒が痙攣した。
「見せてくれるね、アズくん……?」
きつく締めつけたまま、指の輪が軽く上下する。ぶるりと身体を震わせた片瀬は、白旗を上げるように何度もうなずいた。
「み、見てくだ、さ……っんん、あ、櫻木さんの好きに……っ」
「っああ、ありがとう、大好きだよ梓真……っ」
「あんんっ、あ、っひぁ」
指から力が抜けていき、緩やかに扱かれる。長く我慢した片瀬には毒のような快感だ。それは瞬く間に全身を駆け巡り、双嚢を固くしこらせていた白濁を押し出した。
「……っで、出る、あぁっ、いく、いくいく……っ」
「いいよ、いって。出して、梓真っ」
「あ、ぁあっあ」
灼けつくように熱い精が、我先にと競り上がってくる。男の指に導かれるまま狭路を濡らし、くぱっと開ききった小孔から勢いよく飛び出した。
「――……ッひ、ひぅ……」
「ごめん、梓真……」
「え?」
絶頂の最中にいた片瀬は、小さな謝罪の声にほんの僅かに理性を取り戻した。
その途端、ずん……っと重い突き上げが、最奥にもたらされる。息をのんだ。視界が明滅する。
「愛してる、梓真……我慢できない……っ」
「……っぁあ、嘘、待っ……あ、今いって……ああ、また、またい、くぅ……っ」
白蜜を止めどなく噴き出している最中だというのに、男の腰が逞しいものを打ち付けてくる。隘路をこすりたて、啼きどころを突き上げ、刺激に慣れず戸惑う奥壁にぶつかる。
深く沈めたまま柔らかい未開の地をぐいぐいと捏ねあげられると、脳天まで愉悦が走り抜けた。
「すごいね……ずっといってる……ああ、可愛い……もっといって、僕の梓真……っ」
「ひぅ……う、ひ、ん……っぁ、あ」
男が恍惚とした顔つきで吐精し続けるものを見つめている。そこは吐き出す精の勢いを失っても、とぷとぷと白濁を垂らしていた。
もう駄目だ。こんな気持ちいいのが続いたら、死んでしまう。
限界を悟った片瀬が手を伸ばすと、櫻木はぎゅっとそれを握り、自分の首裏へ促した。
「僕も出すよ……っ」
最後の力を振り絞って櫻木にしがみつく。
喘ぐだけの気力もない片瀬をしっかりと抱きこんだ男が、立派なベッドが軋むほど大きく律動した。射精のための動きは、片瀬を再び高みへ押し上げていく。
「ぁ、あぁ、あ……い、く、いく」
「僕もだ、……ああ、いくよ梓真、出すよ……っ」
「んんぅッ」
櫻木らしからぬ激しい口づけに息を奪われた。食べるみたいにかぶさった唇が片瀬のそれを食み、隙間から舌をねじ込んでくる。捉えられた舌は痛いくらいに吸われているのに、それも快楽だった。
ばちゅん、と厚い腰が強く押しつけられる。太い屹立は根本まで片瀬の中へ沈み、ぶつかった奥壁に欲情を撃ちこむ。誰も触れたことのないその場所を、男の体液で濡らされる感覚に、片瀬もいつしか果てていた。
「――は、ぁ……アズくん」
眉を寄せて悩ましげに息をついた櫻木が名前を呼んでいる。だが片瀬は返事ができないまま、重いまぶたを下ろした。
身体が重い。指先まで重りがついたかのように気怠く、今はなんの反応もできそうにない。
目を開けて、好きな人の顔を見て、大好きだと、幸せだと、そう言いたいのだけれど。
「構わないよ。そのまま、ゆっくり眠りなさい。……愛してる。返事は明日、聞かせてね」
まぶたの上に柔らかく湿ったものが押し当てられた。
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