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ひとつめ
通話を終え、携帯電話を折りたたむ。シルバーの塗装がところどころ剥げたそれから視線を上げた片瀬梓真は、つくづく自分には無縁な場所だな、と猛烈な肩身の狭さを感じた。
高い天井から釣り下がった華美なシャンデリアが、落ち着いた色合いの明かりをホテル内の隅々まで届けている。調度品や木材の使い方がオリエンタルな雰囲気を作り上げており、高級さに圧倒はされるが、居心地のいい空間といえるだろう。
ラウンジには楕円形のガラステーブルを挟んだソファセットが、五、六十はあるだろうか。片瀬は二脚が横並びになった一人掛け用ソファに浅く腰掛けている。向かい側には広々とした三人掛けソファがあるが、身の置き場に困りそうで座る気になれなかった。
あまりキョロキョロするのもおのぼりさんみたいかと、テーブル上へ目を落とす。繊細で華やかな花柄が描かれたティーカップには、湯気とともにほろ苦い香りを立ちのぼらせる珈琲が満ちていた。
砂糖どころかミルクすらも混ぜることを躊躇する漆黒は、会社で飲むリットル九十八円のボトル珈琲とは存在感からして違う。それも片瀬にとっては貴重な嗜好品だが、目の前にある八百円のブレンド珈琲は口をつけていいのか困惑するほどの贅沢だ。
恐る恐る手を伸ばし、たとえ今地震が起きたとしてもカップを割るものかと、しっかり両手で支える。深みのある芳香に感動しながら一口。上司が驕ってくれる甘ったるい缶珈琲か事務所でいただく味の薄い珈琲しか知らない片瀬の舌には、肩を竦めるほどの苦さが乗った。
(これが珈琲……大事に飲もう)
苦いが、それが楽しい。飲み物はもっぱら水か茶くらいしか口にしないからか、口の中を侵蝕する苦味が新鮮だった。
――だがなんにせよ、八百円の出費は痛い。
待ち合わせのためだけに席を使ってよいのかわからず一番安いものをオーダーしたのだが、この一杯で明日の食事を賄えると思うと切ないものがある。その待ち合わせも、つい今しがた急遽キャンセルの電話を受けてしまったが。
(バイトは休みを取っちゃったし……今から行ける派遣先もない。これ飲んだら、家に帰るしかないか……)
常にカツカツの生活をしている片瀬にとって、ときは金なりだ。都内有数の高級ホテルのロビーラウンジで、高級嗜好品を優雅に飲む余裕など本来はなかった。
「そうは言ってもね――」
背後のソファセットから、困りきった男性の声が聞こえてくる。次いで、小さな溜め息も。
「ですから、そういうお話はお断りしますと何度もお返事したはずです」
(……揉めてる? のかな)
男女四人連れがやってきたのは十分ほど前のことだ。高級ホテルに相応しい落ち着いた身なりと振る舞いの人たちだな、と首から下を一瞥して思ったからよく覚えている。
そんな彼らの会話が徐々にはっきり聞こえるようになり、声の刺々しさがあからさまになってきた。
好奇心に負け、ついさりげなく振り向く。
(わ…………)
――なんて目を惹く男性だろうか。
片瀬は小さく唇を開いたまま、目が合った男性と見つめ合った。
綺麗な浅めの二重に、すっと通った嫌味のない高さの鼻梁。唇は薄いが緩やかに口角が上がっていて、穏やかに整った醤油顔だ。ちょっとだけ垂れ気味な目尻が優しそうで、紳士という呼び名がしっくりくる。姿勢がいいため、和服もよく似合うだろう。
自然なブラウンカラーの髪は後ろへ流されているが、緩すぎず、かっちりしすぎず。覗く額が清潔感を醸し出し、三十代半ばほどの男の落ち着いた雰囲気によく似合っていた。
電気代節約のため片瀬はテレビを見ないが、彼が芸能人だと言われても疑わない。完成した容姿は魅力的で、欠点がなかった。
男は片瀬から視線を逸らさないまま、にっこりと笑みを浮かべた。途端に愛嬌がにじむ。なぜだか彼から目が離せない。
「実は、わたしには結婚を考えている恋人がいるんです。ですから見合いの話は、なかったことにしていただきたい」
紳士が言うと、向かいに座る男女が素っ頓狂な声を上げる。片瀬に背中を向けている二人だ。紳士の隣にいる、七三前髪で眼鏡をかけた物静かな男性は、怪訝そうに片方の眉をくいと上げている。
ずいぶんとデリケートな話題の最中に振り向いてしまった。
片瀬はもっと見ていたく感じる微笑みから、ぎこちなく顔の向きを戻す。だがそれでも、躾のできていない子どもみたいに耳をそばだててしまった。
声を上げたのは男女のうちの男性らしい。
「大成くん……その場しのぎの嘘はあまりいい結果を呼ばないよ」
「本当ですよ、伯父さん。わたしがきちんとこの見合いを引き受けるのを見届けるため……ここに来ているんですから」
「まあ! 花田さんはご存じだったの?」
「いえ……存じ上げません」
硬質で淡々とした声は、紳士の隣にいる七三男のものだろうか。鋭く冷ややかな印象にたがわない雰囲気の低音だ。
「花田どころか、誰にも話していませんよ。それだけ……わたしにとって大切な人なんです」
「まあ、まあまあ……!」
女性はどうやら少し楽しんでいるようだ。ころころと声が弾んでいる。
少しの沈黙のあと、空気が動いた気がした。隣に誰かが立つ。
片瀬は異様な緊張感の中、膝の上で忙しなく指を組んだ。だって、見なくてもわかる。
片瀬を見下ろしているのは――あの紳士だ。
「すまない、やはりわたしには、君と一緒でない未来を思い描けなかったよ」
背後で息をのんだのは二人の男女だろう。視線が突き刺さる背中に、じっとりと焦燥の汗をかく。
混乱したまま、ゆっくりと紳士を仰ぎ見た。
グレー地にストライプが入った三つ揃えを着こなす彼は、一目で立場の高い人物だとわかる。その気品を保ちつつ、淡いグリーンのネクタイには癒しと親しみを感じた。
「おいで」
彼は唖然とした片瀬の手を取り立たせると、親しげに腰を抱き寄せる。並ぶと十センチは背が高い。ふわっとウッディ系のフレグランスが鼻腔をくすぐる。夜だからか、紳士自身のかすかな甘い体臭が混ざり、なんとも形容しがたいが蠱惑的な香りだった。
「大成さん、もしかしてその方なの?」
興奮していたのが一転、動揺を抑え込んだような女性の声に、片瀬は漠然と理解する。
――この騒動を回避するタイミングは、もうない。あとは流れに身を任せて巻き込まれるだけだ。
「ええ、彼がわたしの大切な恋人です。わたしのために身を引き、きちんと見合いを受けるようにと……ですがわたしは、彼の犠牲の上にある未来をどうしても受け入れられない。同性だとか、歳の差だとか……そんなものでこの想いは誤魔化せなかったんです。――許してくれる? アズマくん」
前半は男女へ、最後の問いは片瀬に向けられた。
なぜ名前を呼ばれたのかわからない片瀬は内心戸惑うが、眉を寄せて疑いを隠しもしなかった伯父は逆に信じたようだ。
紳士は切なげに目尻を垂れ下げ、そうっと生まれたての小さな子猫を抱き上げるように片瀬の手を取る。可哀想なほど不安がる表情は、駆け寄って抱きしめてあげたくなるくらいに切なげだった。
片瀬はきゅっと唇を引き結ぶ。
どうして彼が片瀬を巻き込んだのかは、わからない。だが求められていることはわかる。この際、様々な疑問は後回しだ。
(わかりました。俺でよければ)
手を握り返すと、紳士は心得たように腰を抱く手に力を込める。共謀の意思は通じた。
あたかも愛し合う恋人同士かのように寄り添い、神妙な表情でうなずいた。
「はい、大成さん」
さっきまでの会話に出てきた紳士の名を呼ぶ。余計なことを言うより、策のありそうな彼に任せたほうがいいと思ったからだ。
男は端正な顔をほころばせる。
それは誰が見ても、恋人の許しを得て苦悩を解き放った安堵の微笑だった。
「ありがとう。では申し訳ありませんが、わたしたちはこれで」
彼は礼のあとに片瀬のこめかみへ口づけた。それからにっこりと男女へ向かって笑みを送り、片瀬の腰を抱いたままラウンジの出入口へ歩き出す。生まれてはじめて他人にキスをされた片瀬は瞬間的に叫びかけたが、ぐっとこらえて男の腕に従った。
席から十分に距離を取ったところで、彼は前を見据えたまま声をひそめた。
「大変申し訳ないけれど、ここを出て僕の車に乗りこむまでは、このままフリを続けてくれる? 今夜の予定は大丈夫?」
片瀬は小さくうなずく。
たまたま隣の席に座ったことも、つい振り返って目が合ったことも、彼が困っていて片瀬に手助けができることも、何かの縁だ。ここまで関わっておいて、それは無理だなどと無責任なことを言うつもりはない。
「ありがとう……助かるよ」
心底ほっとしたような声の主を盗み見た。
目尻には優しさの象徴みたいな笑いじわがあり、紅茶色の瞳が甘そうで舌が疼く。
なんとなく片瀬には、今夜の出会いが神様からのご褒美みたいに思えていた。
***
食品製造・加工業をはじめ、医療品等の製造販売、不動産建築業なども行う大企業のグループ会社・リヴィトー株式会社では、どこの家の台所にも大抵置いてあるような調味料を製造・販売している。親会社はグループの中枢を担う大手食品メーカーだ。
十五階建ての自社ビル最上階に位置する社長室には、二人の男がいる。
かたや黒髪を綺麗な七三前髪に整えた眼鏡の男、花田。地味なスーツに身を包んでいても、その姿勢のよさと潔癖な雰囲気からは気品が漂っていた。
男は中指で眼鏡のブリッジを軽く押し上げる。その仕草がいやに似合うため、社内の一部女子社員の間では「理想の鬼畜眼鏡」と呼ばれているそうだ。そんなものを理想とする価値観に首をひねったが、どんなときも狼狽えない花田は俗っぽい噂なんて気にしない。
彼が心を砕くのは、家庭教師時代の元教え子で、現在は上司となった男に関係する事柄が主だ。
「ええ。あなたが昨夜、見知らぬ青年の腰を抱き、鼻の下を伸ばして親密そうにホテルを出て行ったことはその場におりましたから存じております。わたしがお訊きしたのは、その後のことです」
「それは僕と彼の秘密だろう?」
「ふざけてないでさっさとお吐きください」
鋭い一喝だ。特に痛いわけでもないだろうが、こめかみに指を添える仕草は彼の呆れ具合を正しく表現していた。
「詳細を共有しておかないと、何かあったときにフォロー差し上げられません。まあ、わたしは構わないのですよ。あなたが矢面に立って、あれやこれやと口さがない方々の恰好の暇つぶしになったとしても。昨夜置き去りになったわたしが、あなたの伯父夫婦に質問責めにされた苦痛をあなたも味わえばよいのにと思いますし」
「花田は素直だねえ。仕方ない、洗いざらい彼と僕の甘い時間を話すとしよう。秘書の顔が怖いと冗談のひとつも言えない」
慇懃無礼な花田のこめかみが、一瞬だけぴくんと震える。だがそれ以上の苛立ちは見せず、――そして言われた男も煽ることなく、にっこりといつも浮かべている笑みを深めた。
「彼の名前は片瀬梓真、歳は……ああ、訊いていないな。恐らく二十五歳前後で、会社員だよ。あの後は近場のカフェで話をした。ホテルにいた理由は、待ち合わせ相手にドタキャンされたかららしい」
話しながら男が手の中で揉んでいるのは、自社商品のゆるキャラ『リヴィくん』のぬいぐるみだ。一番人気の調味料ボトルに、目と口と可愛らしいピンクの頬、それから丸いフォルムの手足がついている。
社長デスクの上にいつも座っているぬいぐるみは細長い形をしており、手持ちぶさたなときに常日頃から揉み揉みされていた。
そして男の名前は櫻木大成。代表取締役社長であり、この部屋の主だ。
「あんなに優しくて美人な片瀬くんとの予定をドタキャンするだなんて、もったいないことをする人もいたもんだ。おかげで僕はうんざりする見合い話をサクッと断れたけれどね」
「冗談は休み休みお願いします。それにしても、あんなところでお知り合いに出会えるなんて社長の強運には恐れ入りますが」
櫻木は穏やかな顔を片側だけ歪めて目を眇め、週一ジム通いで鍛えた厚い胸を張るとふふんと腕を組んだ。得意げに踏ん反り返る櫻木に気付いた花田が、「立場的にその悪ガキ顔をそろそろおやめになっては?」と、付き合いが長いからこそ言える悪態をついてくる。
「いやね、めずらしく君を欺けたものだから」
「――まさか」
「そう、そのまさかだ。僕は昨日、完全に思い付きで目が合った片瀬くんを恋人に仕立て上げた。そして彼は咄嗟に僕の恋人のフリをしてくれたわけだ」
「ありえない……では名前も当てずっぽうで?」
「彼のタイピンにAZUMAと彫られていたんだよ。見たかい? 伯父たちの呆気にとられた顔を」
「笑いごとじゃありませんよ……あなたの目敏さが恐ろしいです。不審がられたらどうなさるおつもりだったんですか」
「嘘をつくくらい見合いに興味がないのだと、同情でも買おうと思っていたよ。突拍子もない行動にフラれた状況も合わせれば、あまりの情けなさに伯父たちも心底引いてくれるだろうしね」
「はあ…………」
肺の中の二酸化炭素どころか、体内のありったけの空気を吐き出すような溜め息だ。まだ始業後間もないというのに花田は疲れきっている。
上司に対する態度ではないが、慣れているし、櫻木だって昨夜の片瀬の行動には内心かなり驚いた。手を握り返されたときは声を裏返しそうだったほどだ。
大手メーカーの代表取締役を父に持つ櫻木は、生まれたときから御曹司だった。
金に困ったことは一度もなく、家と呼ぶより屋敷と呼ぶほうがしっくりくる実家には執事からメイド、専属庭師に料理人など様々な職種の使用人が通い、あるいは住み込んで仕事をしている。そんな大人たちに、次男坊の気楽さでのびのびとした性格は十分に愛された。勉学やスポーツをやらせれば人並み以上の結果を出し、学生時代は『櫻木大成不可侵条約』なるものがあったくらいだ。
勤勉さとビジネスセンスは血筋以上に努力のもので、グループ会社に就職したあとはとんとん拍子に出世した。妬む者たちを黙らせるように業績を伸ばし、引退した前取締役の後釜に異例の若さで就任したのが二年前だ。
男盛りの三十五歳、実家は裕福、次男坊で学歴も職歴も一級。そこに――高身長で物腰柔らかなイケメン紳士とくれば、あかさらさまに櫻木は『好物件』だった。
昨夜のように縁談が舞いこむのはめずらしいことではない。しかし相手が誰の娘であろうと、どんな顔でどんな趣味を持っていて卒業大学がどこの名門であろうと、櫻木には見合いをする気が一切なかった。両親はそういった考えを尊重してくれているし、グループも会社も世襲制ではない。
だから下心やお節介が満載の見合い話に、いい加減辟易としていたところなのだ。
うんざりして、もういっそ高圧的な態度で跳ねのけるのもひとつの手か……と血迷いかけたときだった。向かいのソファに座る伯父夫婦の背後で、青年が不思議そうに振り返ったのは。
――なんて目を惹く青年だろうか。
美女も美男も腐るほど見てきたが、青年の顔立ちと雰囲気は櫻木にとって恐ろしいほど好ましかった。
古いオルゴールの木箱みたいに艶やかな飴色の髪はふんわりとセットされ、白いうなじに少しだけ毛先を散らしている。前髪は斜めに流され、長く量の多い睫毛に囲まれた黒々として水っぽい瞳がよく見えた。どこか困っているように見えるのは下がり眉だからだろう。
何より目を引いたのは、下唇の斜め下にぽつんと存在する艶黒子だ。おっとりした表情と艶黒子に誘われて、無意識にそこへ触れたくなってしまう。
気付けば櫻木は青年を自分の事情に巻き込んでいた。てっきり焦って逃げるか怒るか……と思っていたところに、恋人らしくうっとり微笑んでくれた瞬間の衝撃は言葉にしえない。きっと雷に打たれたときは、あんなふうに全身が痺れて頭が真っ白になるのだろう。
「仕立てのいいスーツを着ていたし、いいところのお坊ちゃんかもしれないね。礼儀正しくて本当にいい子だった。巻き込んでしまった僕に文句を言うでもなく、あの対応で大丈夫だったかと心配してくれたんだよ」
「それはそれは……甘やかされて育った世間知らずか、それとも嘘の手練れか、どちらでしょうね」
「後者ではないね。ああそれと、引き続きしばらくの間は恋人役をしてもらうことになったから」
「正気ですか?」
目を瞠る花田に「問題でも?」と言えば、間髪入れず「問題だらけです」と返ってくる。
だが櫻木をよく知る有能な秘書は撤回も改善も求めない。求められたところで、納得できないと折れないのが身に染みているのだ。そして早々納得しないのが面倒なのだと、しかめた顔には書いてあった。
「とにかく、あなたは立場を自覚なさってください。わたしは片瀬氏の調査をさせていただきます。文句は言わせません」
「はいはい、言うと思っていたよ。どうぞ」
花田がぶつぶつと悪態をついているが、もう櫻木の耳には片瀬の澄んだ声ばかりが蘇っている。まずは彼にもう一度会わねば。改めて昨日の詫びと、今後についての話がしたい。
(会うとなったら……おいしい料理を味わえる店がいいね。どこにしようかな)
ふんふんと鼻歌交じりな櫻木を横目に、秘書が心底呆れた顔をしていた。
再び片瀬と会えたのは、二週間後の土曜だった。十九時には身体が空くと言った片瀬を駅で拾うためタクシーを手配し、櫻木は一足先に気に入りの料亭へやってきた。
そろそろ店につく頃か、と腕時計で時間を確認したところで、障子張りの扉の前に人の気配がする。
「お連れ様が到着されました」
「ありがとう。どうぞ」
扉がすーっと音もなくスライドし、膝をついた顔馴染みの女将が丁寧に頭を下げる。その背後には、可哀想なほど緊張した様子の男――片瀬が所在なさげに立っていた。たすき掛けになっているボディバックのベルト部分を縋るように両手で握り、不安そうに櫻木を見ている。
その様子以上に片瀬の身なりに驚いたが、櫻木はにこやかに彼を手招いた。
「来てくれてありがとう、片瀬くん。さ、中へお入り」
「失礼、いたします」
片瀬がおずおずと個室内へ入ってくると、女将は料理を運ぶ旨を告げて下がっていく。
櫻木は片瀬が腰掛けやすいよう、テーブルを挟んだ向かい側の座椅子を手で示した。
よほど場慣れしていないのだろう。片瀬はまるではじめての面接に臨む就活生並みに全身を強張らせている。脚運びは不自然でないか、手の位置は、目線の向きは……と頭で復習しながら椅子のそばまでやってくる学生そのもので、櫻木は思わず軽く吹き出した。
「ふふ、そんなに緊張しないで」
「あ、す、すみません。こういったお店に……慣れていませんで」
さりげなく室内を見回した片瀬が居心地悪そうにつぶやく。
和食なら間違いないと思ったのだが、あまり馴染みないようだ。二十代の青年ならファミレスやファーストフードのほうが好ましいのかもしれない。
「そのようだね。話をするなら個室だろうと思ったんだけれど、君の好みを訊くべきだった。気が利かずに申し訳ない」
「そんな、櫻木さんが謝ることでは。お、……わたしのことはお気になさらず」
ぎこちないものの、座椅子に敷かれた分厚い座布団へ正座する片瀬の身のこなしからは下品さを感じない。それは彼を巻き込んだあの夜に抱いた印象と同じだ。
しかし今夜の片瀬は、櫻木の記憶にいる色っぽい青年とは打って変わり、純朴で頼りない雰囲気が強かった。
灰色パーカーと黒スキニーの組み合わせはシンプルで清潔感があるが、ひたすらに凡庸だ。セットしていない髪が額を隠すと、途端に幼さが目立つ。
そう、十代の学生のようなのだ。仕立てのいいスーツに身を包み、ブランドもののネクタイを締め、ネクタイピンも腕時計も革靴も、見る者が見れば一目でいいとわかる品をまとっていたあの夜とは、まるで別人のように。
(それに、あの夜よりやつれているような……?)
目の下は薄っすらと黒ずみ、秋も深まる十月中旬となれば乾燥しているだけかもしれないが唇もかさついている。スタイリング剤がついていない髪は心なしか色艶が褪せているような。
ゆったりしたパーカーを着ているため上はわからないものの、スキニーパンツを履いた脚が不安になるほど細かったのはさっき見たとおりだ。
「あの……櫻木さん」
畏まった様子で片瀬が口火を切る。しかし言葉を続ける前に、料理を運んできた女将の呼びかけが聞こえた。
「話は食事をしながらにしよう。いいね?」
「は、はい」
うなずいた片瀬が膝に手を置き、きゅっと唇を引き結ぶ。その仕草が不安そうな小動物に思えた櫻木は、懐石料理が並び終えるまで視線で片瀬を愛でていた。
「それで、さっき言いかけたことは何かな? ああ、もちろん食べながらでいいからね。マナーなんて気にしないで」
再び二人きりになり、今度は櫻木から促す。
すると片瀬は箸を取りもせず、しゃんと背を伸ばしたまま頭を下げた。
「申し訳ありません、櫻木さん。恋人役を辞退させていただけませんか」
茶碗蒸しにスプーンを差し入れたところだった櫻木は、出汁と卵の香りを堪能しつつ微笑む。
「それは困るなあ。無理なお願いをしたのは僕だけれど、君は快諾してくれたはずだよ?」
「そ、そうなんですけど……よくよく考えてみて、わたしでは駄目だと判断したので」
「なぜ? あ、言葉遣いも楽にしていいよ。ここはビジネスの場ではないからね。普段は自分を俺と呼ぶんだろう?」
狼狽える片瀬だが、一人称がどうので押し問答するつもりはないらしい。間をおかずうなずき、「実は」と細い肩を狭める。
「俺はしがないサラリーマンです。借金持ちの」
「ほう……?」
「櫻木さんは大きな会社の社長さん、ですね。無知なもので、お名刺をいただいたときにお立場をすぐ察することができず……帰宅して調べて、驚きました。いくらフリだとしても、恋人が俺みたいなのでは櫻木さんに不名誉すぎます。それに平日の昼間は会社勤めなのですが、それとは別にバイトがあって……いざというとき、お役に立てない可能性もあるんです。一度うなずいた手前、本当に心苦しいのですが……」
片瀬が単純な「やっぱり嫌だ」という理由で辞退したがっているわけでないと知り、櫻木は納得した。だが、やはり首を横に振る。
だって、片瀬がいい。見た目が好みなのもたしかにあるが、彼が心配しているのは櫻木の不利益についてばかり。お人好しな優しさを知ってしまい、それが余計に可愛く思えていた。
御曹司だ社長だと、櫻木のステータスの恩恵をあずかろうとする人間は多い。それを悪いとは思っていないが、櫻木のステータスを損なわないよう身を引く人間はめずらしく、このまま縁を切るのはもったいなかった。
「まあ、そう結論を急かないでお食べよ」
促すと、片瀬は非常に言い出しにくそうに困り眉をさらに下げる。
「恥ずかしながら、持ち合わせがなくて……お話がすんだら失礼しますので、こちらは気にせずお願いします」
顔には出さなかったが、櫻木はぎょっとしていた。
櫻木が誘い、勝手に店を決めて予約し連れて来たのに、彼は自分で払うつもりだったのだ。だから緊張しきって態度がぎこちなかったのだろう。
そういえば料理が並ぶ間も物言いたげだったし、松茸の土瓶蒸しや造りの五種盛りを見たときは目を瞠っていた。払えない、と焦っていたのかもしれない。
(心外だ。僕は呼び出した相手に財布を出させる気などないんだけれど)
払う意思を見せて好感度を上げる常套手段も世の中にはもちろんあるが、彼はそういった下心も持ち合わせていないように見える。
さて、どうしたものか。当然払わせる気もなければ、食べさせる気でいるが。
櫻木は驚かされた仕返しにと、ちょっとした悪戯心を出してみることにした。
「そうは言ってもね。料理はもう並んでいるし、君が食べなければ廃棄になってしまうよ?」
「……ッ……そう、ですが、支払えないとわかっていて、いただくわけにはいきません」
「一旦僕が支払っておいてあげるから食べてしまいなさい。今夜の食事はまだだね? お腹も空いただろう」
「とんでもないです。これ以上借金は増やしたくありませんし……普段から夜は食べないので、大丈夫です」
「――普段から?」
ぐっと声が低くなりそうになるが、どうにか堪えた。
ころりと転がり落ちそうに大きな目を瞬かせ、片瀬は不思議そうな顔をしている。
「あ、夜はバイトに行くので時間もありませんし……帰宅したら寝るだけなので、カロリーを摂取しなくていいんです。ですので、すみません」
今一度深々と頭を下げる青年を見つめ、櫻木は喉の奥で唸る。
由々しき問題だ。これは見過ごせない。何せ彼は食事を、車を動かすためのガソリン補給のように捉えているのだ。乱世の武士でももう少し食事の楽しみを知っていただろうに。
(若者がこんなに痩せて、しかも夕飯をとらない? ――ありえないな)
櫻木は自らの悪戯心を後悔し、咳払いで空気を変えた。
「片瀬くん、その料理は君が食べなさい。さっきは悪ふざけをしたが、支払わせる気は最初からないんだ」
「いえ、ですが……」
「君が食べないと食材が無駄になるだろう? 料理人だって悲しむ。僕も君が食べてくれないと、一緒に何を食べようかとワクワクしていた分、ショックだ。僕のささやかなお願いを聞いてもらえる?」
片瀬はまだ少し迷っていたようだが、櫻木が頼む形に流れを持っていったせいか、今度は素直にうなずいてくれた。
「よかった。温かいうちにお食べ」
「はい……あの、いただきます」
拝むように両手を合わせてから箸を取り、椎茸の天ぷらをさくりと食べる。そうして世界で一番おいしいものを口にしたかのように幸せそうな顔をして、「おいしいです」と笑った。
(か、……かわいいじゃないか……)
尻がむずむずする。好みがわからずスタンダードな懐石にしたが、肉や魚、もしくは鍋物のほうが好きだったろうか。今の時期だとカニやフグがないのが口惜しい。いつか山ほどおいしいものを食べさせて、片瀬に肉をつけてやりたい。
とはいえ今は話を進めるのが先だ。
片瀬は借金があり、バイトに明け暮れていると言う。恋人のフリを片瀬にしてもらうならば、櫻木は懸念事項をクリアしていかなければならない。
「ところで……会うのが今日になったのは、シフトの都合か何かだったのかな?」
「はい。人手が足りていなくて……何度もお断りしてしまい、すみません」
「気にしないで。ちなみに君はいくつだろうか。会社以外でなんの仕事を?」
松茸ご飯の香りにうっとりしていた片瀬が、ハッとする。よほどおいしいのだろう。櫻木は脳内で「今度は鯛めしと鯛しゃぶにしよう」と決めた。
「今年二十一になりました。平日は夜にビル清掃と、朝の新聞配達をしていて……土日は派遣バイトに」
初対面で抱いたイメージより若いが、未成年ではなくて安心する。だが若いとはいえ、明らかなオーバーワークだ。やつれているのは気のせいじゃないらしい。
そしてひとつ、櫻木には解せないことがあった。
「失礼を承知で訊かせてほしい。話を聞く限り、君は生活苦のようだが……前回身に着けていたものには、ブランド品もあったね?」
しかも、いたのは高級ホテルのロビーラウンジだ。
櫻木は片瀬を気に入ったし見捨てる気もないが、浪費癖による生活苦ならばまずは金銭感覚と身の丈にあった買い物の仕方を指導しなければいけない。
片瀬は苦笑いして、そうです、とうなずいた。
「あの日に身に着けていたものは、会う約束をしていた方に渡されたものなんです」
「スーツを?」
「シャツから靴まで全てです。俺の私物は下着だけでした。家を借りるとき、親身になってくださった不動産屋の店長さんから……お会いするときは身に着けるようにと。普段の俺は、あんなにいいものを身に着けられるような稼ぎはないです」
不動産屋の責任者と、客。その関係性で値の張るものを贈ったり夜に待ち合わせたりするだろうか。櫻木の頭の中には、二つの仮説が導き出される。
(恋人関係か、もしくは……援助交際のようなものか。彼を見る限り後者にはとても思えないが、前者だとも思いにくいな……)
「つまりその店長と君は、恋人同士?」
「こ……ッ、いえ、違います!」
片瀬は首も両手もぶんぶんと左右へ振って否定した。
「俺は見た目も野暮ったいですし、格安物件を探していたので事情も少し話していて……心配してくださったんだと思います。ご遠慮申し上げたのですが、いいから持っておきなさい、と……なのでお借りしているんです」
(それ、向こうは貸してるつもりじゃないと思うな……)
間違いない。その不動産屋店長は片瀬に好意がある。着飾らせ、そして手ずから脱がせたい……という邪まな愛欲の好意だ。二週間前のあの夜、ホテルで待ち合わせた片瀬をどうするつもりだったのかは推理するまでもない。
(僕は運がよかった。片瀬くんは例の店長に会わせないようにしよう。うん。それがいい)
片瀬と話していると、次から次へとやりたいこと、してあげたいことが湧いてくる。こんなふうに他人に積極的な気分になれるのは久しぶりで、そういった意味でも櫻木はもう片瀬に恋人のフリを頼むと決めてしまった。
「話はわかったよ。借金があるうえにバイトで忙しい君は、僕の恋人のフリをする時間的余裕もないし、僕に悪評が立つかもしれないことが心配で仕方ないわけだ」
「はい。そういうわけなので、すみません。あの場にいた方々には、僕が他の方と浮気をしたとか、そういう方向で別れ話になったと説明してくだされば大丈夫だと思うんです。しばらくは傷心のフリで、なんとか凌げるかもしれませんし……!」
(ああ……かわいい。僕の心配をするばかりか、自分が悪者になっても僕の評判が落ちないよう配慮してくれるなんて。なんの関わりもない僕にここまで献身してくれる謙虚な子を、あきらめるわけにはいかないよねえ)
櫻木はバイだが、どちらかと言えば女性が好きだ。――と、思っていたのだけれど。
今のところ彼を裸に剥いてどうこうしたいというよりは、可愛がってあげたい気持ちが強い。具体的には毎日三食お腹いっぱい食べさせて、着心地のいい綺麗な服を着せて、適温の室内でのほほんと笑っていてほしい。夜はゆっくり休み、朝はさわやかな気分で目覚めてほしい。
だから。
「では改めて、君に恋人役をお願いしたい」
「――……」
ここまで話したのになぜ、と片瀬が絶句している。何度目かの謝罪を言い出す前に、櫻木はたたみかけた。
「まずはじめに、僕の恋人に借金があろうとなかろうと、そこは大した問題じゃない。僕は子どもじゃないから、恋人の経済状況を理由に口を出すような身内はいないんだ。いや、いるかもしれないが、彼らは無視で構わない程度の付き合いだ。なんなら立て替えて払ってしまうのもいいね」
「ッ!? とんでもない……!」
「だろうね。そもそも僕と君は男同士だから、突かれるならまずはそこだと思う。僕は気にしないけれど。さて、これで懸念はひとつ消えたね」
「は、はあ……」
「次に君が忙しくて僕の相手役を全うできない、という件だね。片瀬くん、アルバイトと派遣の仕事をやめて、僕の家のハウスキーパーをするのはどう?」
「え……」
実にいい考えだ。キョトンとする片瀬も可愛く、櫻木の笑みは深まっていく。
バイトで忙しいのはわかった。バイトを辞めさせるのが難しいこともわかった。だったら櫻木が斡旋した、今より身体に優しい仕事で、今より給与があればいいのだ。
ちょうど週に二日来てくれていたハウスキーパーを先日断ったところで、新しい人を探さなければと思っていた。
職種の特性上、女性スタッフが多いのだが、どうにも櫻木は無意識に気を持たせてしまうようでトラブルが絶えないのだ。頻繁にうっかり転んで抱きついてくるのはマシなほうで、大胆にも股間を揉みしだかれたときは本気で説教をする羽目になった。あんなやるせない思いはもう遠慮したい。
年嵩で長く続けてくれたスタッフもいたが、膝を悪くしたと言われれば櫻木の無駄に広い家の掃除を無理に依頼するのは躊躇われた。
そのような事情も交えつつ提案すると、片瀬は「プロレベルの仕事ができる自信がありません」と八の字眉をきゅうっと下げる。
「掃除も、料理も、人並み程度です。研修を受けているわけでもない素人では、ご満足いただけないと思います」
「精一杯やってくれればそれでいいよ。それに、これには僕の下心もあるんだ」
「下心、ですか」
「足繫く通ってくれたら、僕と君はもっと恋人らしい関係に見えるだろう? 念のために訊かせてほしい、本当の恋人はいる?」
「いえ、いません」
「そう。ご家族はどちらに? 同居かな?」
「いえ……両親ともに、もう。親戚類も知らないので、俺の周囲で櫻木さんにご迷惑をおかけすることはないと思いますが……」
片瀬は思った以上に天涯孤独な身の上なようだ。
(年齢以上にしっかりしているのも、食事ひとつ甘えてこないのも、頼れる人が少なかったからだろうか……なんて哀れな)
庇護欲がぐんぐん募り、腕の中で猫可愛がりしてやりたい気分だ。実際にすると怖がらせてしまいそうだから、信頼関係が築けてからがいいだろう。
とにもかくにも、片瀬を雇うことに問題はなさそうだ。勢いづいた櫻木は携帯の電卓アプリを起動させ、軽快に数字をタップしていく。
「そうだな。土日は休みとして、一日これくらい……カケル週三日、カケル四週間。交通費は別途先払い。片瀬くん、どうだろう? 少なければ言っておくれ」
算出した一ヵ月の給料を片瀬に見せると、彼は半ば青褪めて頭を振る。気に入らなかっただろうか。
「こ、こんなにいただけませんっ、俺は素人ですよ……!?」
多すぎたようだ。大した金額でもないのに、謙虚な彼は半泣きになっている。
しかし櫻木にとってこれは現時点で思う最低賃金であり、彼の働きによって加算されるものなのだが、今は言わないほうがよさそうだ。
「この中には不慣れな仕事をさせることや、恋人のフリをしてもらう謝礼も含まれているんだよ」
「ですが、あまりに櫻木さんにデメリットばかりです……!」
「僕としては早くハウスキーパーの後任を決めたいし、君の人柄をとても好ましく思っているから、ぜひうなずいてほしい。君にお願いするのは、むしろメリットだらけだねえ」
端から断らせる気も、片瀬の説得に折れてやる気もない。昔から花田には「穏やかそうに見えて押しが強すぎるんですあなたは」と、何度も溜め息をつかせている櫻木だ。
「どうしても嫌なら、バイトを辞めて借金を返しても数年は静かに暮らせる額を君に貢ぐのもいいね。僕ももう前途ある若者を支援する立場だ」
「なっ……何を、おっしゃって……っ」
「君は働いて給与を受け取るか、金をもらって縁を切るか、どちらのほうがいい?」
ずるい言い回しだ。心優しく生真面目な青年は、ただで大金をもらうなんてできるはずがない。
案の定、片瀬はぎこちなく頭を下げた。
「さ……櫻木さんのお家の、ハウスキーパーをさせてください……一生懸命勤めますので、どうか……」
「ありがとう、これからよろしくね」
「それは俺の台詞です……あの、櫻木さん」
気分がよくて、鼻歌を奏でたい気分だ。上機嫌でお吸い物の椀に口をつける櫻木を、片瀬はまじまじと見ていた。
「もし俺が、お金だけくださいって言ったら、どうするおつもりだったんですか……?」
「もちろん渡すよ? まあ君を気に入っているのは本当だから、何かと理由をつけて会いには行ったけどね」
「…………」
「受け取ってしまった罪悪感で、君は僕を追い返せないだろうし」
片瀬は呆気にとられた様子で目を瞬かせていたが、やがて息をこぼすように笑った。儚げな印象は変わらないが、その笑顔は年相応に瑞々しい。
「あはは……っ、櫻木さん、不思議な人ですね」
「そうかい? ああほら、お食べ。食べ終わったらデザートも頼もう。甘いものが嫌いじゃないなら、ぜひここのあんみつを食べてほしいんだ。とてもおいしいから」
「はい、では……お言葉に甘えて」
照れくさそうに細くなった目尻には、甘味への期待が見え隠れしている。櫻木は嬉しくなってニコニコしながら食事を進めた。
人を見る目はあるほうだと自負している。片瀬は大丈夫だ。
見合いの斡旋やおべっかには辟易としていたし、おひとり様慣れした私生活に変化が欲しかった頃合いでもある。
しばらくこの青年と過ごせるなら、きっと毎日が華やぎ、心が弾むに違いない。先々週に彼と知り合った夜よりも、今夜はもっと強く片瀬への好意を抱く櫻木だった。
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