Prologue

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Prologue

「こんなにいい天気になったの久しぶりな気がします」 お昼を食べ終わり、私達はハイドパークからロンドン市内に向かって歩いていた。 目の前には普段の鉛色の空からとは真逆の、抜けるような青色の空が広がっていて、雲一つない空はどこまでも澄み渡っていて気持ちいい。 「滅多に晴れないからな、こっちは。夏でも太陽が出てる時は稀だぞ」 「そうなんですか?」 「ああ。こっちの人間は皆、夏のバカンスに太陽の光を求めて外国に出かけるんだ。大体物価の安いスペインやポルトガルが人気だな」 「ふうん…」 そういえば、すぐ隣はヨーロッパ大陸なんだっけ。 渡英して一か月が経つのにあまり実感がないのが不思議だ。 「そうだ、ロンドンのおすすめスポットって何がありますか?」 「そうだな、大英博物館にある『王様の図書館』が俺のお気に入りだが今日みたいな天気の日には少々もったいないかもな…」 「えっ、行きたいです!私、本好きですし」 「そ、そうか?」 「歩いてどのくらいですか?」 「ここからだと、バスで行ったほうが近いかな。二階建てバスに乗るぞ」 そう言えばいつかもアフタヌーンティーのあと、CHIKAさんとロンドンのバーに行くのにバスに乗ったな。 彼女は今、どうしてるだろう。 きっともう、私のことなんか忘れちゃってるだろうな。 「何してる、早く行くぞ」 「はい」 智樹先輩に差し出された手を、迷うことなく取った。
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