Prologue

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千香が賢木の傍若無人さに振り回されていたその頃、遥か遠く離れた英国の首都、ロンドンのスコットランドヤードでは彼女が残した原簿を巡って上条和樹巡査と後輩のネイサン・リー刑事が意見を交わしていた。 「仕入先は全てシンガポールになっていますね」 「本当だ。向こうに贔屓の画廊でもあんのか」 「さあ。それよりもジョー、個人的に気になるのは先ほど上条教授が仰った『名前を変えられた』絵画2点の方です」 「『黄色い花』と『沐浴する女』のことか?」 ネイサンの言葉に、和樹が眉根を寄せた。 「ええ。写真がないので断定のしようがありませんが、『黄色い花』はゴッホの『ひまわり』、『沐浴する女』はルノワールの『横たわる女』だと思われます」 「マジかよ?!」 思わず大声を上げた和樹に、周りは反応した。 「もちろん、どちらも複製画ですけどね」 ネイサンが片眉を上げた。 「けど、随分あざといことするよなあ。賢木ってやつも。大胆っつうかなんつうか」 「やり手で知られていますからね。あの男は。出資先の美術館があるのも京都でしたし」 「京都?」 「ええ。印象派の小美術館という触れ込みで」 ネイサンはそう言って、携帯から検索したサイトを見せてくれた。 英語と日本語で書かれたHPは訪日する外国人が多い観光都市京都ならではの配慮だろう。 「さっすが。仕事が早いねえ」 「どうも」 ネイサンは片眉を上げてみせるとPCの画面を一瞥して大げさにため息をついた。 「シンガポールか…そう言や、決算書が改ざんされてた会社も確かシンガポールだったよな…」 和樹が呟いた言葉に、ネイサンは思わず聞き返した。
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