緊急連絡

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緊急連絡

俊が甘粕に報告をしていると同時刻、小島は教室で不機嫌そうに机にとっ伏していた。横にいる辻がそれとなく機嫌を取ろうと帰りに何処か行こうか、休日に何処か行こうかと提案している。もう一人、横にいた石光真紀は目を細め遠くを見つめるようなまなざしで教室を見渡してから一言呟く。  「なんかさ、最近の空気いいよね。教室の」  その呟きに対して、とっ伏していた小島は鋭い目線を石光に向けた。  「それってどういう意味?」  「ん?平和なのがいいよね。平和なの嫌い?」  石光が首を傾げて小島の質問に答えると、小島はとっ伏していた状態から上体を上げて質問をする。  「今がいいってことは、今までは我慢してたってこと?気に入らなかったってこと?そう、そういうこと」  小島は大きく目を見開いて石光を見つめる。その目はどこか狂気を帯びていた。それを見ていた辻は口元に手を当て、はわわと焦った様子であった。小島はすくっと席から立ち上がり、帰ると一言いってすたすたと教室を後にした。  「真紀、どういうつもり!?」  驚愕した辻は石光に尋ねた。石光はふうと息を吐いて辻の問いかけに答える。  「碧、もうやらないんでしょ?ああいうこと。なら正しいことをしていると教えてあげたほうがいいかなと思って。私、前から嫌だったんだよね、ああいうの。それを止められない私も情けなくって……」  石光が本心を吐露すると、辻はしっかりと受け止め、ゆっくりと頷く。  「真紀の気持ちは分かったわ。でも、覚悟はしておいた方がいいよ」  「うん。わかった」  石光はどこか悲しそうな笑みを浮かべて頷いた。  甘粕への報告が終わった俊は自宅に戻り、筋トレをしていた。腕立て伏せを非常にゆっくりなスピードで行う、自重トレーニングを行っていた。ゆっくりと上体を地面に近づけていくところで俊の携帯電話が着信音を鳴らした。俊は腕立て伏せをやめて立ち上がり携帯電話見ると、辻からの電話である。  「通話は緊急時だけ―――」  「今すぐ会いたい」  俊が通話を開始すると、辻は俊の受け答えに対して被せるように要求をしてきた。俊は驚きながらも確認する。  「緊急なんだな?」  「そう!」  「わかった。そちらの最寄の〇〇公園でいいかな。学校の連中に見られる可能性は低いはずだ。あ、女子一人の夜の出歩きは危険だな。自宅まで迎えにいこうか?」  俊の提案に、電話越しの辻は顔を赤らめて返答する。  「ばっかじゃないの!私の家族に勘違いされるでしょ!……それにしても、やっぱ私の家の場所知ってるんだね……引くわ」  辻のテンションは気にせず、俊は淡々と会話を続ける。  「了解した。では、お迎えはやめておこう。1時間後に〇〇公園でおち合おう」  といって一方的に俊は電話を切った。  (いちおう、余裕を見て1時間後といっておいた。30分前に現着して〇〇公園の周辺の調査を行うか。夜だ、ちょうどいい。闇夜に紛れてサーマルスコープでアンブッシュがないか確認しよう)  1時間後  辻は待ち合わせ場所の〇〇公園に到着すると携帯電話にメールが届いた。メールは俊からであり、10分遅れるとのことであった。メールの報告と異なり、俊は5分遅れで待ち合わせ場所に到着した。  「すまない、遅れてしまった」  「とかなんとかいって、ずっと前からここにいて私が誰か連れてきてないか確認してから遅れた体で来たんじゃないの?」  遅れてきた俊に対して辻は鋭い推察を見せるが、俊はしれっと普通に遅れただけだよと答えてから、用件を聞こうか?と辻の呼び出しの真意を探り始める。  「あんたさ、真紀――石光真紀に対して何かしてる?」  「何かとは?」  「私や碧の弱みを握っているとか…」  「いや、君のアレはたまたまだ。俺の行きつけの本屋で事に及んだのをたまたま見掛けてしまったのさ。小島さん?この前呼び出されて初めて喋った感じかな?それ以外全く接点ないが?」  俊のしらばっくれ方に辻はこめかみに青筋を立てる。  「たまたまなのに首尾よく一部始終を動画に収めるわけ?へぇ、そう。ほんとすっとぼけてるのむかつくわ。どう考えても、碧に対してなにかしたよね?」  「したといえば、お手伝いしてほしいというお願いを断ったぐらいだが?」  徹底的にしらを切ろうとする俊に対し、辻は右手を頭に当ててかぶりを振る。  「もういいわ。今日起こったことを言うから、そっちで判断して。今日の放課後、不貞腐れている碧に対して、真紀が今の方が平和でいいと碧のやってることを暗に否定した。この行動があんたの計画内であればいいけど、そうでなかったら無防備状態の真紀に矛先が向いてることになってる。なんとかしたい!」  辻の嘆願に対して、俊は右手を顎に添えて考え始める。返答がないので辻は俊に詰め寄り両肩をつかんで悲痛な顔で俊を見つめた。  「とりあえず、事情はわかった。だが、俺には何もできない。石光さんも何か策があってのことだろう。だが、俺には何もできない」
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