紳士的な男と、アリスと呼ばれる少女の話

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「······花言葉の知識に長けていらっしゃるのですね、アリス。」 男は、それはそれは嬉しそうに目を細め、形の良い唇で弧を描く。 少女が男から受け取ったのは、キャンディ製のリボンが施された、薄い綿菓子のラッピング。可憐に咲く薔薇の花。 黒、三本。────永遠の愛。 赤、三本。────愛しています。 白、三本。────私はあなたに相応しい。 ぜんぶで九本。その意味は。 「"今のあなた"ならお察しでしょう。私は、あなたにいつも一緒にいて欲しいのです。永い間、願い続けていました。」 男はそう言い、空を見上げ、掲げた手を流すように動かす。彼の手の動きに合わせ、辺りは明るい昼間の勿忘草色から、夜の色へと染まりゆく。 紺青色の空に幾多もの星が瞬き、流星が泳ぐ。光っては流れ、光っては流れ。星屑のシャワーが降り注ぐ。 「こちらの流星は、あなたの瞳から零れ落ちた雫です。」 「涙?」 「いいえ、希望の種ですよ。」 「希望の、種···?」 男の言葉は、何のことだかまるで分からない。
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