名前を呼んで

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皆がざわざわと部活や家路へと教室を後にする中、俺は思い付いて中庭へ続く道を急ぐ。 中庭にはプレハブ小屋があり、売店と自販機があるのだ。 俺は自販機の前に止まり財布から硬貨を出す。 ケン兄に何かしてあげたかった。 俺は迷いながらカルピスウォーターを選ぶ。 学校の帰り道、転んでかなり膝を擦りむいて大泣きしてた時、ケン兄が見付けてくれて、おんぶして家まで連れて帰ってくれた事がある。 その時、母が出してくれたカルピスを二人で飲んだんだ。 澄んだ氷の音と甘さが残るカルピス。 飲み干して俺が痛みを忘れて美味しい!と言った事にケン兄も笑ってくれたっけ……。 あの笑顔が忘れられない。 思い出と共にカルピスウォーターを手に教室に戻る。 「逃げたかと思ったぞ」 ケン兄はもう来ていて、窓際の俺の席の前に立ち腕組みして壁に寄りかかっていた。 細身で背の高いシルエットはそれだけで絵になった。 「逃げないよ。俺は先生と会う為に居残りしてるんだから。はい、どうぞ!」 「やっぱりワザと課題やらないんだな!何?ジュース?」 差し出したカルピスウォーターにキョトンとしながら受け取ってくれた。 「お、これ夏限定なんだな」 「あ、本当だ」 いつもと違うパッケージに、言われて気が付いた。 「カルピス、懐かしいな。足怪我して大泣きしてたのにカルピス飲んだらケロッとしてたよな」 思い出して笑うケン兄。 お、覚えてる!! この高校に入れて初めてケン兄に会った時、物凄く素っ気なかったんだ……。 俺の事、忘れてるのかなと思って、なかなか子どもの頃の話が出来ず、他の生徒は愛称とかで呼ぶクセに俺だけは「宮下」って真面目に呼んでさ……。 フルネーム知ってるはずなのに絶対呼んでくれなくて……下の名前呼んでくれたらケン兄は忘れてても俺はあの頃に戻れるんじゃないかと毎日準備室通って名前を呼んでと詰め寄ってた。 なんだよ、俺の事、分かってたんじゃん!
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