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茉里サイド
みんなはいつ、自分がお姫様じゃないって気がついたの?
好きな人に振られた時?
友達からかわいい服が似合ってないと指摘された時?
芸能界のスカウトをされてると思ったら、AVの勧誘だった時?
好きでもない男と告白されて付き合ったのに、友達に紹介する時、「あんま、可愛くないけど」と言って紹介された時?
「ねえ。いつよ?」
居酒屋のけたたましい賑わいもコロナのせいで無くなって、私の声がやけに大きく聞こえる。力任せに叩きつけたビールジョッキから、ビールの泡が零れ落ちた。
「告白OKした時は、あんな嬉しそうな顔してたくせにさ。いつから、可愛くないにシフトしたんでふかーーーっ」
「ちょっと、茉里ちゃん。酔すぎよ!!」
管を巻く私を鬱陶しそうに睨みつけながら、透明なパーテーション越しに枝豆を口に運ぶ。武史の冷たい対応を摘みに、またビールを煽る。
「うるさいわね。私が彼氏と別れたら、嬉しそうに飲みに誘って来たくせに」
「あんたが振られたと思ったのよ!面白い話が聞けると思ったら、あんたが振ったとかつまんないじゃない」
武史は高校の時からの親友で、おかまで、おネエで、ゲイで、花屋なんてのを急に始めたくせに、そこそこ儲けている、32歳、独身男だ。辛辣な所を気にしなければ、最も付き合い安い。
「そーよ。今回は私が振ってやったんだから!なのに、なんでこんな悔しーのよっ!」
「はいはい。『あっそ。そんな事ならわざわざ呼び出さずにメールで言って。』って言われたからでしょ?これ、4回目」
なんでそこで、楽しそうに笑うかな?まじで。
「んー。じゃ、はい。武史が面白い話して」
「は?ある訳ないじゃん。私はみんなのタケちゃんなの。誰とも付き合わないし、誰とも別れたりしないわー」
「まじで。なんで、私よりモテモテで、引く手あまたなわけ!!訳がわかんない!マイノリティはどこにいったのよ!!少数派なんじゃないの!!」
「ふふふ。いい事教えてあげるー。ゲイもおカマも、美男、美女もぜーんぶ少数派な・の・よ」
目を見開き固まった私に追い討ちをかける。
「あんたみたいに、無難な顔立ちで女って事に胡座かいて、その他大勢と仲良しこよしやってたら、その他大勢のうちの1でしかないのは当たり前よ。もう32でしょ?周り気にするの止めたら?」
そう言う武史の目は、化粧もしてないくせに真っ直ぐで綺麗だと思う。この居酒屋に入ってから、チラチラと武史の事を盗み見ている人は沢山いるのに、武史は武史のまま、何も隠さない。
「別に気にしてなんて……」
「嘘。気にしすぎよ!茉里ちゃんって、胸デカいのに女性らしいラインが出る服は着ないし、イケメン好きなくせに、無難な顔立ちばっかり彼氏にしてるし」
目を半目にして聞き流す。
そもそも無難な顔立ちを、選んで彼氏にしているわけじゃない。イケメンに求められた事が無いだけだ。そして、ボディーラインを隠すのは、「顔に自信が無いから身体使ってる」と思われたくないから。それでも半分は図星なので、言い返す代わりにビールを喉に流し込む。それから、何杯か空けてから、武志に持ちかける。
「じゃー、武史が私をお姫様にして見せてよ。武史の言うとーリにするからさぁー」
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