茉里サイド

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「で。なんでこーなった?」 駅のトイレで武史にメイクを直されながら、酔いが覚めた頭を鏡に打ち付けた。 「ちょっとー。人がせっかく綺麗にしてやってんだから、大人しくしときなさいよ。」 武史の手はカチャカチャと、迷いなく動いて忙しない。 「ホントに行くの? 相席BARだっけ?」 「そーそー。携帯は私が没収しとくから、2時間したら迎えにいくわ。ワンナイトラブのラブの無い、安全なワンナイトを楽しんできてちょーだい」 「それで、私が大っ嫌いな女を演じて来ればいんだっけ?」 「そーなの。うめ子がテレビで言ってたのよ」 おデブで辛辣なコメンテーターうめ子さんは、いつの間に全国的有名人へとなっていた。実は武史の師匠とかで、武史はよくテレビのうめ子の言葉を抜粋してくる。今回も、『モテたいなら、1度自分の嫌いな女を演じてみなさい。』というものらしい。 「そんなんで、ホントにもてんのー?」 「知らないわよ。だから、試して欲しんじゃん」 「じゃー、自分でしなさいよ」 「駄目よ。みんなのタケちゃんのアイデンティティは崩せないわ。ファンが悲しんじゃう」 武史の嘘泣きは放っておいて、頭の中の嫌いな女をたぐっていく。やっぱり第一に女を意識させる系が嫌いな気がする。そう思ったら、一人の女の顔を思い出した。 「美緒とか、結構嫌いかも」 「誰よ。それ」 「ほらー。高校最後の日に、武史に告ってきたじゃん。武史がドン引きしたやつ」 「ああ。あの、おまたせ女か」 「それそれ」 武史から聞いた話では、呼び出された場所で10分も待たされたあげく、「お、ま、た、せ♡」 と言って出てきたらしい。真緒は高校で『ミス』とか呼ばれてチヤホヤされていたので、よもや振られるなどとは思っていなかったのだろう。それを初めて聞いた時の酒は、格別にうまかったなぁ。 「あー。あれねー。確かにモテてはいたらしーから、いんじゃない?」 「結構目に付いてて、仕草とか覚えてるかも。」 覚えるくらい見てたんだぁーと言う、嘲笑う視線には答えずに、早く化粧を終わらせろと急かす。 「あ。2時間も、武史はどこ行くの?」 「知ってる?1本裏に、MAXバー新しく出来たらしーの。」 「は?ちょっと、そっちが本音何じゃないの!?」 「なわけないじゃない。ほら行った、行った。」 背を押されるように一緒に女子トイレから出て、街路に進む。歩いて5分もしないうちに、相席屋についてしまう。 「いい?2時間後には迎えに来るから、店から出ないこと。あと、おまたせ女になり切って過ごすのよ!」 「わーた。もう。どーせモテないわよ。」 相席屋のドアに手をかけて、中に進む。最後に1度振り返れば、武史の姿はもうなかった。
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