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武史サイド
「で。なんでこーなったわけ!?」
自分の声がやけに響いて、多くの視線を集めてしまう。武史は慌てて席に着いた。
店に着いてすぐ、茉里を探すと、机の上に伏せている姿を見つけた。その横で、愛おしそうに髪の毛を撫でる男の姿も。
武史が声を出して、席に着いても反応しない茉里に、顔を覗き込むと案の定寝息を立てていた。
「ちょっと信じらんない。こんないい男目の前に、なんで寝れるわけ!?」
武史が思わず素で話してしまうと、いい男と称された人物が声を殺して笑う。
「武史さん?」
「……そーよ。え。どーゆう事なの。これ?」
相手が気にしてない風だったので、そのまま喋ることにする。
「あ、俺。睦っていいます。」
睦と呼ばれた男は、カジュアルなファッションを緩く着こなしている。
「あ、どーも。武史でーす。」
営業の顔を貼り付けて、挨拶を交わす。
「本当に綺麗な人ですね。さっきまで、茉里さんがあなたが迎えに来るからって言ってたんですよ。」
「あらー。ありがとう。で。なんでこの子こんなに酔ってんの?強いのよ?この子。」
「いやー。結構飲んでましたもんね。あ、俺も酒頼んでいいですか?」
「あ、じゃ、ついでに私も。」
それぞれの酒を片手に話は戻る。睦の話では、茉里ちゃんは初めちゃんと「おまたせ女」を演じていたらしい。すると男がチヤホヤと寄ってきて、茉里ちゃんをくどいていたという。
「やだ!やっぱりうめ子さんは、正しいわぁー。」
「うめ子さん?あの太った、おかまの?」
「そうよー。私、うめ子さん信者なのよー。うめ子さんが言ってた、モテたいなら1番嫌いな女の真似をしたらモテる説を検証してみる会だったのよ。今日。」
「なるほど!!」
「で。なんでこの子は、酔ってんの?」
「それが、多分モテ始めた所で、なんかキャラが変わり始めて……。俺はほら、あそこのカウンターで逆ハーになってるなーって見てたから、詳しくは知らないんですけど。多分、1番酒が強かった人が持ち帰っていいって話になってた気がするなー。」
「なんか、その辺から素が出てきてるわねー。」
「見る度に、キャラが変わっていくから、ついつい観察しちゃって。本当強いですね。彼女。」
「うふふ。恋しちゃったかしら。」
「いえ。まだ全然。」
ハッキリ言い切る睦に、武史は好印象を抱く。
「睦くん、ここに不似合いなくらいイケメンね。」
睦はあざーすっと笑ってグラスを空ける。
「まだ飲む?」
「あ、はい。まだいけます。」
注文した新しい酒に口をつけながら、話を元に戻す。
「彼女が一人勝ちして、周りが潰れてたんで、俺が話しかけたんです。そうしたら、『イケメン見ながら酒飲めるなんて、幸せーっ。』って言って、またピッチ上がっちゃって……。」
「それで潰れたわけ!?」
睦は苦笑して、肯定する。
「送ろうとしたら、イケメンのおカマが迎えに来るから大丈夫だって言い張ってたので。」
それには武史の方が苦笑した。
「まさか、こんな流れになるなんて思っても見なかったもの。悪い事したわねー。茉里ちゃん、そのままお持ち帰りされたかっただろーなー。」
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