デイジー

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 社会人になって思う事。僕はこの社会には合わない。どこか浮いている。そのせいか、苦労が多かった。  意見の違い、人間関係、その他もろもろと沢山ある。だから僕には、友達が居なかった。  だが、不思議と一人の生活は然程苦ではなかった。「慣れている」と言う感じだ。少しの寂しさはあるが。  よくよく考えてみれば、僕は子供の頃も一人が多かった。やはり学校に馴染めずに、友達が出来なかったのだ。  そんな僕にも、たった一人だけ友達が居た。「デイジー」と言う名前の女の子だ。  不思議とデイジーは、僕以外の人には見えていなかった。僕だけが見える友達だった。  デイジーはいつも僕の願いを叶えてくれた。気に入らない奴が居れば、そいつを消してくれた。「消す」と言うのは、その言葉通り、存在を消してくれたのだ。消された者がどこへ行ったのかは、分からない。  デイジーの服は、いつも真っ赤に染まっていた。そしていつも、笑っていた。  僕はデイジーの事が、大好きだった。いつも一緒に遊んでいた。  だが大人になるに連れ、僕はデイジーの姿が見えなくなったしまった。変わりにクラスに友達が出来た。皆にも見え、服が真っ赤に染まっていない友達が。  中学生の頃には、完全にデイジーの事が見えなくなっていた。それでもデイジーは、僕の願いを叶え続けてくれた。気に入らない奴は「消す」、と言う願いを。  そのまま大人になった僕は、今でも子供の頃の友達の、デイジーの事を想っている。僕の本当の味方はデイジーだけだったから。  大人になっても、デイジーは僕の「消す」と言う願いを、叶え続けていた。  僕は一度も疑問に思った事は無かった。消された者の行く先を。  ある日の夜、僕はある夢を見た。  デイジーに消された者達が、地獄の洞窟で泣き叫んでいる夢だ。そして皆が言う。「お前も早く来い。」と。  夢から目が覚めると、いつもの天井が見えた。灰色で、染みの付いた汚い天井。  僕は鉄格子に空を見上げる。  毎朝朝食を食べた後は、カウンセラーと話しをする。主にデイジーの話だ。カウンセラーは言う。デイジーはもう一人の僕なのだと。  だがデイジーは確かに存在する。今日はそれを証明しよう。  カウンセリングの時、僕はデイジーにお願いをした。「この人を消してくれ。」と。  僕の願い通り、デイジーはカウンセラーを消してくれた。僕の目の前で。  大きなハサミで、カウンセラーの首を何度も何度も突き刺した。カウンセラーの首元からは血しぶきが上がり、デイジーの服は真っ赤に染まった。デイジーは死んだカウンセラーの死体を、大きく口を開けて、食べてしまった。床に広がる血は、長い舌で綺麗に舐めとった。カウンセラーは跡形もなく消えた。  この一部始終を医者に見せた。医者は言った。「確かにデイジーは居た。」と。  デイジーは悪霊でも化け物でもイマジナリーフレンドでも無い。もう一人の僕だと言った。僕の体の中から、デイジーは姿を現したのだと。体が二つに裂け、中からデイジーが出て来たのだと。  それを聞いて、僕は思い出した。  ああ、僕は人間では無かった。僕は、化け物だった。人間と友達になりたかった、化け物だった。
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