38. エピローグ「私を信じろ」

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 トワはぶつぶつと呟く。 「……それとも、一つだけ贈ることで、この家から柚姫に出て行けと言う遠回しな嫌がらせか?」  何故そうなる。ここは私の家だ……。  顔を引きつらせながら、柚姫はもう一つの贈り物に手を伸ばした。  こちらは、座布団と違ってやけに可愛らしい包装がしてある。指輪とかネックレスが入っていてもおかしくない装丁だ。  可愛く結ばれた真っ赤なレースのリボンを引いて、包みを開いてみる。  中から現れたのは、白い小さな箱。 「あ……」  蓋を開けて小さく声を上げた柚姫に、座布団を物色していたトワが興味を移す。横からひょいと箱の中を覗き込んだ。 「……何だこれは?」 「ん~……」  箱に収められているものを、柚姫が拾い上げる。  柚姫の指からぶら下がったものを見て、トワがぴくりと眉根を寄せた。 「え~っと、これは……尻尾のストラップ……?」  それは、動物の尻尾を模した愛らしいストラップだった。猫とか狐の尻尾はよく見るけれど、銀色にかがやくこの尻尾は…… 「あ」  トワが柚姫の手から尻尾を奪い、ぽいっと部屋の隅のごみ箱に投げ入れた。 「トワ、何てことするのよ」  柚姫は犬がフリスビーを追いかけるようにして、慌てて拾いに行く。 「……柚姫、そんな禍々(まがまが)しいものは捨てろ」 「え……なんで、可愛いよ?」  柚姫は、ぽんぽんっとゴミをはらうようにしながら、ストラップと一緒にソファーへと帰ってくる。  トワは、牙をむき出しにして叫んだ。 「それは、あいつの毛で作ったものだ!」 「へ? チトセさんの毛?」  ということは……これは紛れもなく、本物のチトセさんの尻尾……?  まじまじと尻尾を観察する柚姫に、トワは怒声を浴びせる。 「早々に捨てろ! あいつはマーキングする気だ!」 「マ、マーキングって……」  おいおいと思いながら、柚姫は手の平にふさふさとした尻尾を乗せる。  やっぱり、可愛い……。  ちょん、と触って感触を確かめ、いそいそとスマホのケースにつけてみる。 「おい、こら、柚姫! 何を嬉しそうにつけている!」 「いいじゃない、可愛いもん。……よし」  ふさっとしたものが寄り添い、地味な茶色のケースに花を添えている。 「おい……」  トワの殺気が伝わってくる。 「な、なによ~……。じゃあ、トワが代わりに、もっと可愛いものをくれたらいいじゃない」  なに、とトワは眉間にしわを寄せる。 「もっと可愛いものだと?」 「トワは狼にはなれないの? 図書館で読んだ本に、吸血鬼は霧になったり、狼になったり出来るって書いてあったわよ」 「……残念ながら、狼になる能力はない。蝙蝠(こうもり)になら変化できるが……」  トワはポンっと手を叩く。 「蝙蝠(こうもり)の羽で手を打たないか?」 「は?」 「私の羽でストラップを作ってやる」  そう言えば、一度だけトワの蝙蝠(こうもり)姿を見たことがある。あるが…… 「い、いいわよ! だ、大事な羽なんでしょ!?」 「柚姫の為なら、羽の一枚や二枚や三枚……」  蝙蝠(こうもり)って、羽二枚しかないよね!? 「悪いから、いいわよ、本当に!」  柚姫は手を交差させながら必死に拒絶する。 「何だ、もっと可愛いものが欲しいと言ったのは柚姫ではないか?」 「可愛くないわよ! むしろ怖い!」  柚姫は逃げるようにして、スマホを手に部屋へ戻ろうとする。 「あ、おい、柚姫!」    背後から迫ってくる気配を感じながら、柚姫は夜だということも忘れて廊下をばたばたと走った。
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