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トワはぶつぶつと呟く。
「……それとも、一つだけ贈ることで、この家から柚姫に出て行けと言う遠回しな嫌がらせか?」
何故そうなる。ここは私の家だ……。
顔を引きつらせながら、柚姫はもう一つの贈り物に手を伸ばした。
こちらは、座布団と違ってやけに可愛らしい包装がしてある。指輪とかネックレスが入っていてもおかしくない装丁だ。
可愛く結ばれた真っ赤なレースのリボンを引いて、包みを開いてみる。
中から現れたのは、白い小さな箱。
「あ……」
蓋を開けて小さく声を上げた柚姫に、座布団を物色していたトワが興味を移す。横からひょいと箱の中を覗き込んだ。
「……何だこれは?」
「ん~……」
箱に収められているものを、柚姫が拾い上げる。
柚姫の指からぶら下がったものを見て、トワがぴくりと眉根を寄せた。
「え~っと、これは……尻尾のストラップ……?」
それは、動物の尻尾を模した愛らしいストラップだった。猫とか狐の尻尾はよく見るけれど、銀色にかがやくこの尻尾は……
「あ」
トワが柚姫の手から尻尾を奪い、ぽいっと部屋の隅のごみ箱に投げ入れた。
「トワ、何てことするのよ」
柚姫は犬がフリスビーを追いかけるようにして、慌てて拾いに行く。
「……柚姫、そんな禍々しいものは捨てろ」
「え……なんで、可愛いよ?」
柚姫は、ぽんぽんっとゴミをはらうようにしながら、ストラップと一緒にソファーへと帰ってくる。
トワは、牙をむき出しにして叫んだ。
「それは、あいつの毛で作ったものだ!」
「へ? チトセさんの毛?」
ということは……これは紛れもなく、本物のチトセさんの尻尾……?
まじまじと尻尾を観察する柚姫に、トワは怒声を浴びせる。
「早々に捨てろ! あいつはマーキングする気だ!」
「マ、マーキングって……」
おいおいと思いながら、柚姫は手の平にふさふさとした尻尾を乗せる。
やっぱり、可愛い……。
ちょん、と触って感触を確かめ、いそいそとスマホのケースにつけてみる。
「おい、こら、柚姫! 何を嬉しそうにつけている!」
「いいじゃない、可愛いもん。……よし」
ふさっとしたものが寄り添い、地味な茶色のケースに花を添えている。
「おい……」
トワの殺気が伝わってくる。
「な、なによ~……。じゃあ、トワが代わりに、もっと可愛いものをくれたらいいじゃない」
なに、とトワは眉間にしわを寄せる。
「もっと可愛いものだと?」
「トワは狼にはなれないの? 図書館で読んだ本に、吸血鬼は霧になったり、狼になったり出来るって書いてあったわよ」
「……残念ながら、狼になる能力はない。蝙蝠になら変化できるが……」
トワはポンっと手を叩く。
「蝙蝠の羽で手を打たないか?」
「は?」
「私の羽でストラップを作ってやる」
そう言えば、一度だけトワの蝙蝠姿を見たことがある。あるが……
「い、いいわよ! だ、大事な羽なんでしょ!?」
「柚姫の為なら、羽の一枚や二枚や三枚……」
蝙蝠って、羽二枚しかないよね!?
「悪いから、いいわよ、本当に!」
柚姫は手を交差させながら必死に拒絶する。
「何だ、もっと可愛いものが欲しいと言ったのは柚姫ではないか?」
「可愛くないわよ! むしろ怖い!」
柚姫は逃げるようにして、スマホを手に部屋へ戻ろうとする。
「あ、おい、柚姫!」
背後から迫ってくる気配を感じながら、柚姫は夜だということも忘れて廊下をばたばたと走った。
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