42人が本棚に入れています
本棚に追加
ね、熱中症!?
ううん、熱射病かも!?
とにかく今は早く日陰に――
マントから伸びている手を引っぱった。
ぴくりとも動かない。
女性の力で男性の身体を引きずるのは厳しいが、さらに柚姫は同世代の女子の中でも小柄なほうだった。身長も一五〇センチしかない。
掴んだ手の冷たさに、もしかして死んでいるのだろうかという不安がよぎる。
「そうだ、傘……!」
柚姫は、カバンの中に入れっぱなしにしている折り畳み傘を取り出した。
たしか晴れ雨兼用だったはず。
勢いよく傘を開き、青年に差しかけた。
心なしか日影ができる。
しかし、そんな体制も長くはもたず、汗だくになった柚姫が、今度はその場に倒れ込んでしまう。
「か……傘……」
蝉の合唱が、まるで夢の中のできごとのように、遠くのほうで聞こえる。
「早く……日陰……つくらない……と……」
青年が死んでしまう、そう思ったとき。
すっと陽光が遮られ、柚姫の顔に影が落ちた。
柚姫はぎょっとなる。
全身黒ずくめの男が、柚姫を見下ろしていた。
少し長めの髪は漆黒で、瞳は金色。
整った面立ちに、太陽とは無縁そうな白い肌。
倒れていた青年だ。
気を失っているときは気づかなかったが、かなりの美青年だ。
「お前が……助けたのか?」
低い、けれどよくとおる声。
起き上がれずにそのまま無言で頷くと、青年は冷ややかな視線をむけてきた。
「まったく、余計なことを……。お前のせいだぞ」
謎めいた言葉を呟いたかと思うと、倒れ込んできた。
わわわっ!?
慌てて青年を受けとめようと手を伸ばすが、
「ふえっ」
圧倒的な体格差のため、そのまま押しつぶされる。
「こうなった私は、もう止められぬ……悪く思うな」
青年の吐息が耳にかかり、冷たい唇が柚姫の首筋にそっと触れた。
きゃー!?!?!?!?
柚姫は心の中で絶叫した。
次の瞬間、首筋にちくりとした痛みを感じる。
「えっ……何……?」
呟くと同時に全身の力がぬけ、柚姫はそのまま意識を失った。
最初のコメントを投稿しよう!