1. プロローグ「お前が……助けたのか?」

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 ね、熱中症!?  ううん、熱射病かも!?  とにかく今は早く日陰に――  マントから伸びている手を引っぱった。  ぴくりとも動かない。  女性の力で男性の身体(からだ)を引きずるのは厳しいが、さらに柚姫は同世代の女子の中でも小柄なほうだった。身長も一五〇センチしかない。  (つか)んだ手の冷たさに、もしかして死んでいるのだろうかという不安がよぎる。 「そうだ、傘……!」  柚姫は、カバンの中に入れっぱなしにしている折り畳み傘を取り出した。  たしか晴れ雨兼用だったはず。  勢いよく傘を開き、青年に差しかけた。  心なしか日影ができる。  しかし、そんな体制も長くはもたず、汗だくになった柚姫が、今度はその場に倒れ込んでしまう。 「か……傘……」  蝉の合唱が、まるで夢の中のできごとのように、遠くのほうで聞こえる。 「早く……日陰……つくらない……と……」  青年が死んでしまう、そう思ったとき。  すっと陽光が(さえぎ)られ、柚姫の顔に影が落ちた。  柚姫はぎょっとなる。  全身黒ずくめの男が、柚姫を見下ろしていた。  少し長めの髪は漆黒(しっこく)で、瞳は金色。  整った面立ちに、太陽とは無縁そうな白い肌。  倒れていた青年だ。  気を失っているときは気づかなかったが、かなりの美青年だ。 「お前が……助けたのか?」  低い、けれどよくとおる声。  起き上がれずにそのまま無言で(うなず)くと、青年は冷ややかな視線をむけてきた。 「まったく、余計なことを……。お前のせいだぞ」  謎めいた言葉を呟いたかと思うと、倒れ込んできた。  わわわっ!?  慌てて青年を受けとめようと手を伸ばすが、 「ふえっ」  圧倒的な体格差のため、そのまま押しつぶされる。 「こうなった私は、もう止められぬ……悪く思うな」  青年の吐息が耳にかかり、冷たい唇が柚姫の首筋にそっと触れた。  きゃー!?!?!?!?  柚姫は心の中で絶叫した。  次の瞬間、首筋にちくりとした痛みを感じる。 「えっ……何……?」  呟くと同時に全身の力がぬけ、柚姫はそのまま意識を失った。
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