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「目を覚ましたようだな」
無感動に声の主は言う。
「氷水を持ってきてやったぞ」
事態を飲み込めずに柚姫が黙っていると、その主はベッドに腰かけた。
「どうした? ああ、やはりまだ動けぬか」
そう言って、ベッド脇の棚にコップを置いた青年は、何処からどう見ても公園で瀕死だったあの青年だ。
黒髪をさらっと肩に垂らし、切れ長の眼がこちらを窺っている。
「何か言いたげだな。私も色々と言いたいことがあるが、まずはお前の問いに答えるとしよう」
言われて、柚姫は何から訊いたものかと暫し考える。
「あの……」
「何だ?」
「これは、どういうことでしょうか……?」
「何がだ?」
え~っと……。
訊ねてみたものの、柚姫自身、我ながら要領をえない質問だと思う。
「その、なんて言うか……公園からの記憶が曖昧で……」
「ああ。少々血をいただきすぎたようだ。貧血で倒れてしまった故、お前を部屋まで運んでやった」
ふむふむ、と青年の話を聞いていた柚姫の目が点になる。
血?
「しかし、私もとんだお人よしだ。お前のせいで目的が果たせなかったというのに」
目的?
「あの、何の話……?」
顔を引きつらせた柚姫に、青年はさらりと答える。
「私は、トワ・レフィクル・リヴェッド。お前たちの言葉で言うところの、吸血鬼だ」
きゅ、吸血鬼?
「吸血鬼って……血を吸ったりする、あの……?」
「お前の想像しているとおりだ」
あまりにも突飛なことに、柚姫は事態を飲み込めず呆然となる。
頭の中を黒い蝙蝠が行ったり来たり……と思ったら、佇んでいた青年……トワがいつの間にか姿を消し、柚姫の目の前を本当に黒い蝙蝠が飛んでいる。
視線で辿ると、蝙蝠はバサバサと黒い翼をはばたかせ、そのまま下降。
柚姫の視界の中で、黒い衣装に身を包んだ青年の姿へと変化した。
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