36. 柚姫は……永劫の時を、私と共に生きる気はあるか?

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「柚姫は、人間であり続ければ、自分が死んだせいで私も死ぬと……そう考えるのか?」  トワは次々と想いを降らせてくる。 「私自身が……柚姫とともに命を終わらせることを望むとは、思わないのか?」  え? 今、何て……?   柚姫の目がゆっくりと見開かれる。トワは構わず続けた。 「柚姫は今、両親のことを思い出していたのだろう?」  悲しみがトワに伝わっていたことに、柚姫は顔を強張らせた。 「もし、柚姫が人間のままで、そして私が病にかかっていなければ、いずれ私は柚姫と同じ悲しみを抱くことになっていた……」  そのとき、目の前のトワと、会ったこともないチトセの父親の姿が重なって見えた。  最愛の妻を亡くし、終わりなき傷心旅行へと()せたチトセの父―― 「私は、柚姫と同じだけ時を生きられれば、それでいいと思っている。だが、柚姫とならともに永遠を生きたいとも……思っている」  トワは(ささや)くように、けれどはっきりと柚姫に告げた。 「柚姫、愛している……」  柚姫の上に覆いかぶさるようにして、きつく抱き締めた。 「だから……柚姫の気持ちも聞かせてほしい」  少しだけ腕の力を緩めて、柚姫がトワの顔を見られるようにする。  柚姫は視線を()らさず、真っすぐトワを見た。  金色の瞳が、柚姫の答えを待ちながらも(わず)かに(おび)えの光を宿して揺れている。その(おび)えを取り払うように、柚姫はあふれる想いを口にした。 「私も、トワのことが好きだよ。トワが私のことを思ってくれてるのと同じくらいに、トワが好き。だから――」  視線に力を込めて言う。 「仲間になりたいって言った気持ちはうそじゃないし、同情でもないよ……っ」 「柚姫……」   トワはぎゅっと柚姫を抱き締めた。 「でも……」  トワの胸の中で、柚姫は少し躊躇うように身をよじった。  吸血鬼になってもいいと、そう思った心にうそいつわりはないが、それでも、今まで人間として生きてきた柚姫が、血を(かて)として生きる魔物へと変わることに、何の抵抗もないと言えばうそになる。 「分かっている……」 「え?」  トワは、柚姫の不安を抱き締めるように言う。 「柚姫の愛も、不安も、恐れも……全部。だから、一緒に最良の選択をしよう」 「選択……?」  小さく訊き返す柚姫に、トワは優しく微笑む。 「そうだ。柚姫が吸血鬼になるか、私が人間になるか……これは二人で決めなければならない、選択だ」  まだ時間はある、焦らず考えればいい、とトワはつけ加えた。
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