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37. 御挨拶に今日は伺いました。
夏も終わりへと近づき、秋を思わせる涼やかな風が、時折窓から吹き込んでくる。
こんな風に吹かれるたび、柚姫はチトセのことを思い出す。
屋上から姿を消すとき、チトセは確かこんな涼しい風を纏っていた。
いや――もう少し冷たかったかもしれない。
それはまるで木枯らしのような、強くて、何処か淋しさをはらんだ風……――
はぁ、と柚姫は溜息をつき、何とはなしに外を眺める。
雲の合間に、丸い月が見え隠れしている。
「……また、あいつのことを考えているのか?」
その声にぱっと振り返ると、月と見紛うほど金色に輝く瞳が目の前にあった。
「まったく、あいつのことは忘れろと……」
と、そのとき。
ピンポーン、と夜の静寂を破るように、呼び鈴が鳴った。
柚姫とトワは顔を見合わせた。
時刻は夜の十一時。
こんな時間に訪ねてくる友人もいないし、一体……?
ふいに、トワの顔が不機嫌に顰められた。
わなわなと、拳まで震えている。
どうしたのかと目を瞠っていると、トワは玄関の方へずかずかと歩いて行く。
「え、トワ?」
柚姫は、慌ててその後を追った。
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