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インターホンに出ることなく、トワはいきなり玄関の扉をバンっと開け放った。
「トワ、夜は静かに――」
柚姫の言葉はそこで途切れた。
目の前に佇む白い人影を見て、あっと声が洩れた。
流れるような金色の髪に、頭の上にちょこんと飛び出した獣の耳、そして背後で揺れるふさふさの尻尾――
「ち、チトセさん!?」
「ご無沙汰ですね、柚姫。私を想って、枕を濡らす夜が続いたのではありませんか?」
トワが、ふん、と鼻で笑う。
「お前が来たから柚姫が不安そうにしてるぞ。だいたい、柚姫はお前のことなんか、綺麗さっぱり忘れていた」
「ふふ、でしたら。今度は忘れたくても忘れられないほど、私の存在をあなたの心に刻んでさしあげますよ、柚姫」
「そ、それよりチトセさん!」
柚姫は通路を右、左と確認する。
「その、耳と尻尾……」
「ああ、これですか?」
チトセはぴくぴくと耳を動かす。
「夜は、どうしてもこの姿になってしまのですよ。だから、今こうしている間にも、あなたを攫ってしまいたい衝動を抑えるのに必死なんです」
チトセは、可愛らしいしぐさとは裏腹に、さらっととんでもないことを言ってのけた。
「柚姫、部屋戻るぞ……」
トワは悪態をつくことをやめ、殊勝にも、無視することを決め込んだようだ。
ドアを閉めようとするトワを、チトセの声が止める。
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