37. 御挨拶に今日は伺いました。

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 インターホンに出ることなく、トワはいきなり玄関の扉をバンっと開け放った。 「トワ、夜は静かに――」  柚姫の言葉はそこで途切れた。  目の前に佇む白い人影を見て、あっと声が洩れた。  流れるような金色の髪に、頭の上にちょこんと飛び出した獣の耳、そして背後で揺れるふさふさの尻尾―― 「ち、チトセさん!?」 「ご無沙汰ですね、柚姫。私を想って、枕を濡らす夜が続いたのではありませんか?」  トワが、ふん、と鼻で笑う。 「お前が来たから柚姫が不安そうにしてるぞ。だいたい、柚姫はお前のことなんか、綺麗さっぱり忘れていた」 「ふふ、でしたら。今度は忘れたくても忘れられないほど、私の存在をあなたの心に刻んでさしあげますよ、柚姫」 「そ、それよりチトセさん!」  柚姫は通路を右、左と確認する。 「その、耳と尻尾……」 「ああ、これですか?」  チトセはぴくぴくと耳を動かす。 「夜は、どうしてもこの姿になってしまのですよ。だから、今こうしている間にも、あなたを攫ってしまいたい衝動を抑えるのに必死なんです」  チトセは、可愛らしいしぐさとは裏腹に、さらっととんでもないことを言ってのけた。 「柚姫、部屋戻るぞ……」  トワは悪態をつくことをやめ、殊勝にも、無視することを決め込んだようだ。  ドアを閉めようとするトワを、チトセの声が止める。
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