12.

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ノアとアカデミーで別れ、苗木を植えた緑地へと戻った。 もう作業は殆ど終わっており、ユリウスの姿は無かったが、准将のフィクスと少将のアルディナが、兵長と何やら会話をしていた。 アルディナは俊輔と同じ、筋骨隆々とした大柄で頑強な体格を持つ女性である。 対してフィクスは細身だが、しなやかで強靭な筋肉が全身に均等に付いており、俊敏な大型の猫を思わせる体格をしていた。 彼女らに走り寄り敬礼すると、兵長が頷いた。 「戻ったか」 「遅くなり、申し訳ありません」 会話を止めたフィクスは、黒曜石に似た瞳を俊輔に向けた。 「モリヤか。ウユラの所に行っていたそうだな」 はい。と返答すると、なぜか同情の籠った目で、じっと見つめられた。 「ミュレイ殿といい、ウユラといい…。一癖も二癖もある者に気に入られて、君も大変だな」 ーあれは、気に入られていると言えるのだろうか。 どちらかと言うと、オモチャにされている気がするのだが…。 否定も肯定も出来ない俊輔の顔が、少し引き攣った。 「フィクス。武官全体の予算を難癖つけて削ろうとして来た助司教を、聖堂の一番高い尖塔に半日以上張り付けにしたお前だって、かなり癖があるぞ。他人の事ばかり言うものじゃない」 丸太の如き腕を組み、窘める。 言われたフィクスは、横目でアルディナを睨め付けた。 「こんな所でそんな昔話をしないで下さいよ。それを言うならアルディナ殿も、臨月で身重の身体でありながら、建設中の橋を叩き壊して生意気な導官を埋めたじゃないですか」 ピクリ。とアルディナは右眉を吊り上げ、肩を震わせながら笑いだした。 「ハッハッハ…。そんな、苔の生えた昔話を持ち出すとは。それを言うならお前も」 到底、女性同士の会話とは思えないぶっ飛んだエピソードの数々を聞かされる内に、俊輔は段々震え上がっていった。 武官と導官は、大昔から折り合いが悪い。 武官は五将を筆頭に、血気盛んな変人が多いのだ。 ( よく考えたら、お祭り騒ぎが大好きな常識外れの武官と、少数精鋭のエリート集団の導官と、一致団結する訳無いよな… ) ユリウスとノアが結ばれたのは、奇跡と言えるかも知れない。 二人は暫く静かな言い争いをしていたが、フィクスは咳払いを一つすると、顔色の悪い俊輔に向き直った。 「…まぁ、兎に角だ。特殊任務遂行メンバーにミュレイ殿とウユラがいるが、君をサポートする優秀な兵達もいるから、安心しろ」 「私とフィクスは、王都に残って戦線を支える事になっている。背後の事は気にせず、前だけを見て励めよ」 「レイン将軍、ヴィンセット将軍…」 二人から優しい言葉を贈られ、感激した俊輔は跪いて頭を垂れた。 「ありがとうございます!お役に立てる様に、頑張ります!」 入隊して間も無く、まだ初々しさの残る彼に二人は慈悲深い笑顔を向け、アルディナは力強く激励した。 「モリヤ。必ず生きて戻れ。お前が無事に帰還した後は是非、私の相手になって貰いたいんだ」 「はい。……えっ?今、何て?」 ズンッ。と跪いた足元に、長柄の武器の石突が石畳を貫通し、突き立った。 ぽかんと見上げると、彼女は右手に、見事なポールアックスを握って立っていた。 眩しい太陽を背に、逆光の中、彼女の波打つ黒髪が風に靡き、さながら鬼神が降り立ったかの様な威厳を放っている。 ポールアックスは使用者の好みによって様々に形態を変えるが、アルディナが所有する物は、刺突に使われる先端のスパイクは短く、幅広の斧刃と、石突に近い場所には、足や首を引っ掻ける鉤が付いていた。 フィクスも興味深く、アルディナに同調した。 「あのユリウス殿から何度も直接指導を受けておいて、無事でいるのは君だけだ。どれ程頑強な身体と精神をしているのか、是非とも試してみたい。私にも一度、本気で手合わせさせてくれないだろうか?」 確かフィクスは、ハーフソードと殺撃の達人だと、ユリウスが言っていたか。 彼女が佩刀している、黒鞘の見事なロングソードをちらりと盗み見た。 確実に人を殺せる、鋭く尖った柄頭をしている。 「あの…。おれ…私は、確かに他人より頑丈かも知れませんが、不死身では無い、普通の人間です。正直、キルシュタイン将軍だけで、常に限界の状態と言いますか。ですからこれ以上は…、お許し下さい」 将軍達を前に跪いたまま、率直に拝辞の意思を伝える。 二人はギラギラと輝く双眸で、俊輔の鍛え上げられた肉体を舐める様に眺めている。 今にも、目の前の小動物を捕らえて補食しようとする、肉食獣の目付きをしていた。 ゴクリ…。と、三人の喉が同時に鳴る。 ( この人達、全く人の話聞いてねぇな。無事に任務終えて戻っても、王都で死ぬんじゃないのか、俺… ) アルディナとフィクスはどちらが先にやるかで、再び静かに揉め出した。 彼らのやり取りを黙って見守っていた兵長に、優しく肩を叩かれた。
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