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昔の約束
駅前で待ち合わせだったから、近くのカフェで話すくらいだろうと思っていたら彼は近くのパーキングに車を停めていて、昔からエスコートというのを普通にする彼だったから助手席のドアを開けてくれたりするのは驚きはしない。
「ありがとう。」
「閉めるよ。」
妄想だけど、もしあのまま付き合っていたらこんな感じだったのかも?と思うくらい普通に自然に彼の車に乗る。
運転席に座ったかれは陽菜を見て「行こうか」と言って穏やかに笑う。
「どこに?」
「陽菜と昔約束した場所覚えてる?」
「約束した場所?」
「卒業式の数週間前だったかな、陽菜が運転免許取ったら連れて行って欲しいっていったでしょ?」
思い出せない?と少し悲しそうな顔をして陽菜を見つめる聖知。
彼が思い悩む感じだった頃の事か・・確か新しく出来た近代美術館に行きたいと言った。
「あ。美術館?」
「思い出した?」
先ほどとは違って笑顔になった彼は、楽しそうにナビの設定をする。
「ずっと気になっていたんだ・・約束したのにってね。」
確かに約束はしたけどその前に貴方が「別れよう」って言ったんじゃないの?と陽菜はそう内心思いながらも今日だけの過去の約束だと思って一日楽しむ事にした。
彼と別れた後は、一人で近くの美術館に行く事はあっても誰かと一緒に行く機会は無かった。彼が言う美術館は山の中にあって広い公園に囲まれた白い建物の美術館だ。
此処から車で2時間ほどの距離で近くもなく遠くも無い場所にある。
車にあまり詳しくない陽菜でも解るくらい彼の車は、高級車だと思われた静かなエンジン音と革張りのシート。
普段は、あまり乗らないのかまだ新車の香な残っている車だった。
「陽菜は、普段何してるの?」
「普通のOLだよ。家と会社の往復くらいだよ。」
言いながら悲しくなるくらいそのまんまだった。
「陽菜は、僕の事を聞かないね。」
「んっ?」
「普通は、聞くでしょ?今何してるのとか色々。」
普通は聞くのかな・・聞きたいけど聞けないんだけどなと陽菜は、思いながら彼が聞いて欲しいのかも知れないと感じてはいた。
「普通は、聞くものなの?」
「まあいいか。陽菜は、昔からあまり聞かないもんな。」
「そうだったかな?」
緑の中の白い美術館は、コントラストが綺麗で花壇には花が咲き桜はまだ蕾だがもすぐ開花しそうだった。
何の花の香なのかは解らない甘い香りがする花壇をみながら陽菜はつい「綺麗だね。そうパンフレットと同じ。」と言った。
ここの美術館のパンフレットを駅前でもらって花壇と緑とが綺麗でここに行きたいと言ったのを思い出した。
「うん。パンフレットも春の風景だったもんな・・だからここに来たんだよ。」
記憶力のいい彼が覚えていてもおかしくは無いけれど、陽菜の言葉をお願いを覚えていてくれた事は少し嬉しい。
「行こうか。」
そう言って彼は、昔の様に手を差し出してきたから何となくその手を取り、手を繋いで花壇の間を歩いて美術館の玄関に向かう。
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