男の事情と女の意地

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男の事情と女の意地

「俺は、飯塚武志といいます。」 「僕は、松井聖知です。」 男二人がバーで自己紹介しながら酒を飲むのかと思えばお互いに笑えてきた。 「俺は、飯塚商事で営業をしているのですが松井さんは?」 「僕ですか?実は作家しています。」 「作家ってどんな?」 「色々ですよ。僕自身は有名では無いですが、本は人気があるかもしれません書くだけなんで表に出ない事を条件にしていますから。」 「作家にも色んな契約があるんですね。」 「僕の場合は陽菜を失って呆然としていた時に書いたものを見た編集の女性が出版したいと言い出しまして・・気が付けば作家業です。」 作家だと言われなければエリートサラリーマンにしか見えない装いで酒を飲む聖知は優し気で穏やかそうな男だ。 「陽菜は、松井さんに振られたと言ってたけど?」 「そうなりますよね。彼女の気持ちを確かめたくて別れようなんて言って、そく解ったと言われて・・。」 「あー!なんとなく想像つく。人の話を半分しか聞かないからな~。」 「そんなところありますね。可愛いですけどね。」 「正直、松井さんが現れなければ俺は、自分の気持ちに気が付かなかったんで・・可愛い後輩でほっておけない子だと思ってはいたんですがね。」 武志は、嘘をつきたくはないから正直に話した。 「僕は、陽菜しか見ていなかった。作家になって忙しくて気が付けば今でした。大学も卒業する必要がありましたし・・言い訳ですけどね。」 そう聖知が言うと武志は、自分の過去の女性遍歴を陽菜に知られているから簡単には受け入れてくれないかも知れないと言い出す。 「お互い振られそうですね。」 そう武志が言うと聖知もまたそれを考えると怖いと言う。 「僕には彼女しかいないんです。ずっと・・彼女に相応しい人になりたくて作家になってからも我武者羅でしたよ。やっとです・・目標が達成できて彼女に会えたのは。」 「目標ですか?」 「はい。ドラマ化です「時計の針」という作品なんですけどね。」 ここまで聞いて武志は「えー!」と声を上げた。 作家といってもピンキリで表に出ない作家と言えば色々あるしでまさかあの有名作家だとは思わず。 「ファントム・・」 「はい。ファントム・Kは僕です。」 恋のライバルはあの有名作家? 「陽菜は知らないですよね。」 「ええ、言ってません。陽菜は活字嫌いですからね。」 「みたいですね。」 武志は本気になりかけていた陽菜への想いはこの男の前では勝てないと思った。 彼の作品を密かに恋愛ものを読んだ事があったがデビュー作の作品は彼の陽菜への想いだと考えたら勝てない。 一人の男性が愛した女性を時空を超えて探すという生まれ変わっても探し出すという物語だった。 彼の作品は、一途な男が主人公の事が多いのは、自分を書いていたとかと思うと一言で見失った恋を追いかけ今なのかと思うと武志は自分が割り込んではいけない気がしてきた。 確かに陽菜は好きだが・・彼のように一途に一人だけを愛せるかそれを誓えるかと言われたら自信はない。 「松井さん、俺は陽菜が好きです。でも・・彼女が好きでも浮気しないかと言われたらすると思うんですよ。泣かしたくないのにね。」 武志がそう正直に話すと聖知は「普通はそうじゃないですか?」と答えた。 でも、聖知は真っ直ぐに武志をみて自分は彼女しか見えないし逆に浮気なんて考えられないと言い切った。 それを聞いて武志はキッパリと諦める事にした。 気がついたばかりの恋心だから諦めようと武志は思いその日はトコトン聖知に付き合わせて飲んだ。 この日を境にこの二人は仲良く友人になったのは言うまでもないが・・ このやり取りをしている時に陽菜たちは里香の部屋で飲んでいた。
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