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飯塚商事はいつも平和です。
暦では、春のはずなのに風はまだ冷たくお気に入りの白いコートをロッカーのハンガーにかけて急いで給湯室に向かう。
朝比奈 陽菜は、仕事は出来ないがこのお茶の用意には、自信があったから早朝のこの仕事は誰に言われた訳でもないが陽菜の日課になっている。
男女平等が叫ばれる中で自分のお茶くらい自分で入れるのが当たり前の今日この頃だけど陽菜は、この朝のお茶の用意は欠かせないのだ。
「おはようございまーす。」
上席の部長にお茶を持っていくと「ありがとう陽菜ちゃん」と言ってくれるし茶葉も陽菜がいつも買い足しているくらいお茶には拘っている。
経理の関さんなんかはいつも領収書を出してって言ってくれるけど、ここに勤務して4年一度も領収書は出していない。
陽菜は、この会社が好きなのと就職できない陽菜を採用してくれた唯一の会社だったから恩返しのつもりでもあった。
仕事の覚えも遅くミスも多いのにいつもフォローしてもらいながら4年。
何かの形で有難うを示したいと思って早朝出勤しているが苦にもならない。
「あれ陽菜ちゃん髪切ったの?」
「ええ。わかりますか?」
明日の同窓会の為に昨日の退勤後に髪をカットしてみたのだ。肩より下になっていたから肩より少し上くらいで切りそろえて毛染めはしないのは元々少し茶色の髪は細く毛染めすると痛むから染めないでいる。
「可愛いわ。若く見えるよ。」
そう言ってくれてたのは、社会人になってからずっとお世話になっている先輩の古田 里香さん。
「明日、同窓会なんで少し頑張ってみました!」
「同窓会なの?元彼と再会愛ってやつあるかもー?」
里香さんは、恋愛小説の熱烈なファンでここ数年はある小説家の作品ばかりを読んでいる人だった。
「ないない。雲の上の人になってると思うから私じゃ無理~。」
全国模試でもいつも一桁の順位を保っていた彼だったし国立大学を現役で簡単に合格してしまうような人だったから卒業後はエリートなんとやらになっているに違いなかった。
そんな彼は、身長も高いしかなり今思えばイケメンだったからすでに恋人がいるだろうし、結婚していてもおかしくない。
「そう?以外に彼も一人かもよ?」
「それは無いと思うけど。でも、どうなったか知りたいただ知りたいだけなんですよ。それより友人に会うのが楽しみです。」
「陽菜ちゃんらしいよ。ガツガツしないもんねー。」
「してますよ。ずーっと必死に彼氏募集中です!」
陽菜にすれば、いつも本気で彼氏を探すが人を押しのけてまで自分がという訳でもないし、「いい感じ」になった人は何故か自分以外の人と付き合ってしまう。
つい数か月前も経験したばかりだった。
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