男心と秋の空

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 ファザードがベージュに塗られ、グリーンの鎧戸が付いた窓がある洋風の荻原邸には泉水を設けた庭園がある。その水面に顔を映して陶然としているナルシストの琴美を濡れ縁に座りながら忌々しそうに見るともなしに眺める美沙。彼女は高校三年生で大学進学を目指しているのだが、成績が思わしくない。おまけに琴美が名門大学で彼氏と楽しくキャンパスライフを送っているようなので、それを想うと猶更忌々しくなる。  琴美は大学一年生で美沙の姉なのであった。彼女の彼氏は名を貴志と言って彼女の二年先輩で高校三年の時、彼女が自分の所属するテニス部に入部して来たので知り合った。  琴美は貴志が元々優等生で勉強を教えるのが得意であるお陰で彼と同じ名門大学に入れたと言っても良かった。  そのことを姉から自慢話のように聞かされていた美沙は、自分にも優等生の彼氏がいたらなあと思うと、姉が羨ましくなり、益々忌々しくなるのだった。  そして庭木の金木犀に(すだ)くアブラゼミの喧騒が耳障りで忌々しさを増長していた折、琴美が然も愉快そうに美沙に寄って来た。 「家庭教師紹介してあげようか」  成績が悪い自分に対する嫌味かと捉えた美沙は、口を尖らせて姉を睨みつけた。 「何、怒ってるの。私はほんとに美沙のことを思って言ってあげてるのよ」  どう見ても自分をからかう時の態度だったから美沙は依然として姉を睨みつけていた。 「これは冗談でもなくて本気で言ってるの」  そう言われて美沙は漸う口を開いた。「じゃあ、どんな家庭教師よ」 「私の彼氏」 「えっ、姉貴の?」 「そう。今、丁度空いてるし夏休み中に学力アップ出来たらムチャクチャ大きいし夏休み前だから申し込むには絶好の時期じゃない。パパもママもプロより学生アルバイトの方が断然授業料が安いから賛成してくれるに違いないわ」 「しかし」と怪訝そうに美沙は言った。「何で自ら勧めるわけ?」 「だから美沙のことを思って・・・」  彼氏の懐を温かくする為じゃないのかと美沙が懐疑していると、「多分、申し込むと毎日のように教えてくれるわよ。それに教え方がとっても上手だから美沙の成績が上がるのは確実ね。私、保証しても良いわ」と琴美は自信ありげに言った。  確かにそうかもしれないと美沙は思い直し始め、元々負けず嫌いで普段から姉の鼻を明かしたいと望んでいるから、そんなに言うならと申し込むことにした。  
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!