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突然音がして、バッと振り返る。ニコニコとこびりついた営業スマイルを浮かべた春斗が真後ろに立っていた。足音なんて一切聞こえなかったのに。ハッとなって、エアコンを見る。エアコンの稼働音が些細な音をかき消していた。香織を小声で呼んだ声が消えてしまったように。
「春斗……お前、これ」
「僕の香織。いや、僕たちの香織か。結婚するのが悪いんだよ」
春斗はそう言って隣で屈むと、香織の頬を触る。一真は尻もちをついて後退ると、慌てふためく手でスマホを探った。ポケットからスマホを掴み取り、指紋認証をしようとする。でもうまく反応せず、パスコードでスマホを開こうとした。けれど純粋な寒さのせいなのか、それとも違った寒さのせいなのか指先がかじかんで本来のパスコードがうまく打てない。
「僕たちから離れて、酷いよ本当に。僕たちはずっと一緒にいるって約束したじゃないか。ねぇ、一真?」
名前を呼ばれ、一真はスマホを落とすとギロッとした目で春斗が見る。
「何してるの?」
「あ、いや……」
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