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 春斗はぺちっと一真の頬を触ると、優しく叩いた。息をするだけで殺されそうな雰囲気に、一真は硬直する。 「だから僕はその時間を使って一真を殺す。そして逃げるよ。準備が整ったら、死体を回収しに戻ってくる。そしたらまた一緒だ」  ニコォっと春斗が笑い、立ち上がった。投げ捨てたスマホを取ると、また一真の前に戻ってくる。ん、と言ってスマホを一真に渡すと、一真は眼球だけを動かして春斗を見た。 「通報したかったらすれば良いよ。そしたら僕は一真を殺すだけだ、この」  春斗はポケットからいつの間にか忍ばせていた小型ナイフを取り出すと、鏡のように反射するナイフをちらつかせる。いつでも殺せる、と言っているようだ。 「さあ、する? しない? どっちにする?」  春斗は笑いながら言うと、一真はスマホ、香織、小型ナイフの順番でそれぞれを凝視していく。それだけでかなりの時間が過ぎた。 「……ない」 「ん?」 「通報、しない」  春斗はニッコリ笑うと、「偉い、偉い」と言って一真の頭を撫でた。ゾワッと全身の毛穴が開いて、鳥肌が立つ。冷房が物凄く効いているのに冷汗が流れていた。
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