ある年老いた男

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 もし、こいつじゃ駄目だ、他のやつを連れてこい、などと言われようものなら、私の人生は始まりもしないうちに終わったようなものです。あの御方が最初の言葉を発するまで、おそらくものの数秒であったでしょう。それなのに、まるで永遠のような時間が私を苛みました。 「フッラムだ、よろしく頼む。どうか私の良き友人になってくれ」  初めて聞いたあの御方の声。口の端に浮かんだかすかな笑み。  その瞬間、私は天啓にうたれたようでした。  あの御方の背後に、過去に存在したことのない繁栄を極めた壮麗な世界帝国が、遥か彼方まで広がっていく光景が見えたのです。  ふいに父に言われた言葉が蘇りました。神に仕えるがごとく、あの尊い御方にお仕えしろと。しかしこのとき私は、無意識のうちにあの御方の足元に跪き、まさに自分の中から溢れ出す真実の言葉で忠誠をお誓い申し上げたのです。  この命、果てるときまで、あなた様のため私のすべてをお捧げいたします、と。  あのときから私の心臓は、あの御方の人生を刻むただの時計となったのです。  私をこの世に生かす、ただひとつの理由。それこそがあなたもご存知の通り、のちのムガル帝国第五代皇帝シャー・ジャハーン(世界皇帝)、その名を世界に轟かすことを運命づけられた御方でございました。
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