宮廷

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宮廷

 私はアクバル大帝の治世よりムガル宮廷にお仕えしている家系に生まれました。  もちろん仕えはじめの頃は、現在の私のような身分ではありません。もともと私の曽祖父は宮廷の洗濯夫だったと聞いております。学もなく文字の読み書きもできませんでしたが、頭の回転が早くよく機転の効く人だったと、幼い頃、父が誇らしげに話してくれました。  あるとき曽祖父は宮廷の調理場を通りかかり、傷んだマンゴーを見つけたそうです。曽祖父は「私ならもっと新鮮な果物を、安く仕入れることができる」と料理長に持ちかけました。その通り、曽祖父はよい仕入れ先を料理長に紹介し、双方からよく感謝されたそうです。  またあるとき曽祖父は宮廷の中庭に続く回廊を通りかかり、「この壁に、宝石で草花の装飾を施したらどうだろう。さらに庭が美しく見えるはずだ」と宦官のひとりに提案しました。曽祖父は、若く腕の良い象嵌(ぞうがん)職人を紹介しました。その職人は大層アクバル陛下に気に入られ、のちに宮廷のお抱えになったそうです。
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