皇子

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皇子

 フッラム様は、のちに第四代皇帝となるジャハーンギール陛下とマールワール王国の姫君との間にお生まれになった皇子でありました。  幼い頃より才覚を発揮されたフッラム様を祖父であるアクバル大帝陛下は大層目にかけておられ、フッラム様が六歳のとき、後継者として育てるため手元にお引き取りになりました。そして自らの妃のひとりであるルカイヤ様に、フッラム様の養育を委ねられました。  ルカイヤ様は、大変聡明で宮廷のさまざまな事情に通じたお方でございました。アクバル様との間にお子が生まれなかったため、実母のような愛情を注いでフッラム様をお育てになったのです。きっと第二のアクバル大帝にお育てになるおつもりだったのでしょう。アクバル陛下も実の息子のようにフッラム様をいつでも手元に置き、あらゆる仕事に同行させました。  それでもフッラム様はまだ六つのお子でした。ふつうであれば、まだ母の膝に乗って甘えているような年頃です。  私はフッラム様にお仕えして以来、一日のほぼ全てを共にしておりました。夜でさえおそばを離れたことはありません。私はフッラム様の私室に隣接する小部屋で寝起きをしておりましたがその間の壁は他の壁よりも薄く、フッラム様に何かがあればすぐに駆けつけられるよう、そうなっていたのだと思います。
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