おこる、おこる。

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 ***  私は考える。  何故、村の守り神様なのに、“ヤマさま”の情報が極端に少ないのか。伝聞でしか、神様について伝わっていないのか。それはむしろ、意図的に資料を残さないようにしていたからというのが大きいのではなかろうか。  残しては困るのだ。万が一見つかった時、村そのものが犯罪者になってしまうから。証拠などあってはいけないのだ――ヤマさま、を鎮めるために、生贄を捧げてきたことなど。 「鎮まりください、鎮まりください、ヤマさま、ヤマさま……!欠けた部分は生贄が補います。鎮まりください、鎮まりください……!」  気づけば私は、あの寺の中、十字架のようなものに括り付けられている。目の前にはあの銅像があり、今はその銅像の横に巨大な赤茶の杯のようなものが用意されていた。料理で使う大きなボウルくらいのサイズだ。冷や汗をかく私の目の前では白装束の村人たちが跪き、ずっと銅像に向けて祈りを捧げ続けている。 「鎮まりください、鎮まりください、ヤマさま、ヤマさま……!欠けた部分は生贄が補います。鎮まりください、鎮まりください……!」  欠けた部分を補う。嫌な予感しか、しなかった。白装束を着た村長が柵を乗り越えて銅像に手をかけると、ぎぎぎぎ、と鈍い音とともに銅像の前部分が開いていく。私は小さく悲鳴を上げた。その中から、白骨死体が崩れ落ちて来たからだ。  その白骨死体には、明らかに――片足が、足りていなかった。 「初めての方のためにも、今一度説明いたしましょう」  村長の声が、朗々と響く。 「ヤマさまがお怒りになられると村が滅びる。よって、ヤマさまが祟りを起こされる前に鎮めねばなりません。ヤマさまの銅像から剥がれ落ちた部分を、怒りを買ったものの体で補うことで怒りを鎮めて頂きます。今回は腹部、腸部分が剥がれましたので、生贄には腸を供給してもらいます」 「ま、待ってよ!い、生贄って私のこと!?私、怒りを買うようなことなんか……!」 「前回の生贄は足が剥がれましたので、足を供給した後、ヤマさまの銅像に残りを捧げさせていただきました。今回もそのようにいたしますので、なにとぞよろしくお願いいたします」 「待って!ねえ、ちょっと、ちょっと!!」
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