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そろそろ田舎の因習でも特集したいよね。そんな編集長の気まぐれが、今回の発端だった。どこぞのヨウチューバーの影響で、呪いの儀式やら危ない因習やらに若者の興味が集まっているらしいというのだ。都市部で見られるようなもの、ネットで簡単に見つかるようなものではなく、それこそ現地に行かなければ撮れないような画と情報が欲しい。――最近スクープが取れていない私に白羽の矢が立つのも、仕方ないと言えば仕方ないことなのかもしれなかった。
『一応アタリはつけてあるからさ、ちょっと行ってきてよ佐田ちゃん』
『行ってきてって……N県の山奥でしょ。めっちゃ遠いじゃないですか。一人でですか?』
『女一人なのがいいんだよ、警戒されないでしょ?下手にいかついカメラマンとか連れてくとさあ、ああいう地方の人間ってすごい嫌がってきたりすっから。それっぽい話拾って、いいかんじの施設とか撮影してきてくれればいいよ。写真だけでいいんだから楽でしょ?』
全く、簡単に言ってくれる。先方の許可も取らないで突撃取材なんかして、訴えられたらどうするつもりなのかと思った。確かにうちの雑誌も一時期からするとかなり売上も落ちているし、エログロっぽいDVDをつけてどうにか最低基準を守っているような有様である。もっと若者世代に読まれるように、派手な記事が欲しいというのもわからないではなかったが。
――そもそも、オカルト雑誌で、無料で見られるヨウチューブ動画に勝てると思ってるのが時代遅れなのよ。うちの会社ももう少し、ネット関係充実させりゃいいのに。
とはいえこちらも悲しき社会人、断れるはずもなく。渋々一人マイカーを回して、N県の奥の奥、超山奥の村まで取材に来たというわけである。突然現れた三十代、バリバリ都会人の女に彼等は何を思ったのか。いくらよそものだからといって、のっけから遠巻きにひそひそするのは気味が悪いとしか言いようがないのだが。
――話聞いても、ちっとも“ヤマさま”の正体が見えてこないじゃないの。祟りって、何が起きるかも誰も教えてくれないし。……お寺に、何か古文書でもないかしら。大昔にこういう祟りがありましたー、くらいの話でも出てこないと、記事にならないんだけど。
基本、よそ者は入ってはいけないという寺。村長に直談判してゴリ押しにゴリ押しを重ね、村長同伴でどうにか今日一日だけ入れて貰う許可を得たのだった。
村の北端にある寺は、ボロボロの木造で、今にも黒い屋根から崩れてきそうな有様である。その前で私を待っていた村長は、ぎろり、と落ちくぼんだ眼で私を見つめると一言告げたのだった。
「ええか、若いもん。……ヤマ様を絶対に怒らせないように、失礼のないように。祟りが起きたら儂らはみんな死ぬ。ええな」
「……はい、わかりました」
はいはいまたその話ね。私は心の中で肩を竦めた。そう何度も同じ話ばかりしなくても覚えているというのに。
寺院の外観を数枚撮影したところで、私は中へと案内された。少しは面白いものが見つかることを期待して。
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