おこる、おこる。

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おこる、おこる。

 ヤマさまを怒らせるな。  この村の人々は口癖のようにそう繰り返す。私がこの村に取材に来てから、その台詞を何度聞いたか知れない。 「ヤマ様ってどんな神様なんです?どんな姿?怒ると何が起きるんでしょう?」  よそ者、それもオカルト雑誌の記者なんて歓迎されないのも当然だろう。得体の知れない女一人、民宿に泊めて貰えただけ幸運だというのは私自身よくわかっている。が、それでもこっちも仕事をしなければ食べていけない身分だ。そりゃ多少強引でも、ぐいぐい聞き込みして回るに決まっているのである。 「……ヤマ様の姿は、寺院さ行けばわかる」  矢継ぎ早に尋ねれば、畑仕事をしていた年輩の男性は実にウザったそうに口を開いた。 「ヤマ様の銅像には、絶対に触ったらあかん。怒らせたら祟りがある。どんな祟りかなんぞ俺らは知らん。知らんのも当然じゃ、祟りが起きたらみんなが死ぬけ、絶対阻止せなあかん」  そうなんですかー、と笑顔で頷きながらも私は内心不満だった。 ――何よ。祟り祟りって、実際何が起きるのか誰も知らないんじゃないの。  この村に来て一週間になるが、ほとんど進展はない。寺院に入る許可が昨日やっと降りたというくらいである。  どのような神様なのか、村のお年よりさえ殆ど知らない。それでも、奇妙なほど恐れられている神様。それがこの村の、“ヤマ様”という存在であるらしかった。
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