制裁

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制裁

 最愛の妹を非業な死へと追いやった真犯人の正体に愕然となったケニーは、司会の小男から意味ありげに手渡された金属製の棒を握り犬男ウィリアムに近づいた。それはまさにフラニーの堕胎に使われた道具であり、堕胎を行った中年女が逃げ去った後の部屋から見つけた物だった。 「お前なんだな……お前が、俺のフラニーを……!」  犬男ウィリアムはケニーへ向けちらと視線を送ったが、そこにはなんの感情もなくその目はまるで単なるガラス玉のように無機質だった、その横に付けられた剥製の犬の瞳と同じように。ケニーはフェンシングのように棒を構えるとウィリアムの右目を一息に刺した。 「ぎゃあっ!!!」  鋭い叫び声を上げその場にしゃがみこむウィリアム。しかしエリックが首枷の鎖を力強く引き上げ顔を上げさせる。刺さったままの棒をケニーがゆっくり引き抜くと、串刺しになった眼球がでろりと血の糸を引きながら付いてくる。 「口を、開けろ」  ケニーがゆっくり命令すると、ウィリアムはわななきながら口を少し開いた。 「舐めろ」  言われるがまま、フラニーの体をぞんぶんに舐めつくしたその同じ舌で、己の眼球をまるでアメのように舐めるウィリアム。 「食え」  弱々しい動きで歯を使い棒から眼球を噛み取ると、口中に含み咀嚼を始めた。クチャリ………クチャリ………クチャリ………静まり返った小屋の中に、床にひざまずき片目から血を流しながら眼球を噛みしめるウィリアムの音が広がる。剥製となった犬のジョンはご主人さまの所業を横目にそっと見守っているかのよう。椅子に縛り付けられたまま現実とも妄想とも夢の中ともつかぬどこでもない空間をさまよっている弟のアルベルトは、そんな兄の様子をまともに見ながらなぜかうっすらと笑みを浮かべている。  じつはアルベルトは拘束され病院に閉じ込められて以来さまざまな薬物を投与されており、記憶が繋がらず朦朧となっていたのもそのせいだった。というのも、フラニーはじめ界隈の娘たちに悪魔の所業を繰り返していたのはアルベルトだとされていたため(まさか兄が弟の名を騙っているなど誰も思わなかったので)、貧しい庶民たちを直接的・間接的に苦しめてきたロンバネス伯爵家一家の中でも、一番の重い処罰を課すことすなわち、無惨にも人体改造された最愛の家族の様子を強制的に見物させ、正気を失いそうになれば薬物でしゃんとさせ目を開かせ、発狂すれすれで留めながら生き地獄のパノラマを味わわせた後、ケニーのように家族をもっともひどい目にあわされた者の手で公開処刑に至る、という筋書きが用意されていたのだ。  そのような事情でアルベルトはもはや廃人に近いレベルの薬物依存となっており、現実と妄想の世界をずっと行ったり来たりしているのである。
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