靴下越しのコンクリート

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靴下越しのコンクリート

 脱いだ靴は揃えなさいと、子どもの頃よく母親から怒られた。  社会人になって実家を出た後も、ワンルームの狭い玄関に靴が適当に転がっているのは相変わらずだった。悪い癖は大人になっても直らなかった。  それなのに今、俺は脱いだ靴を揃えた。そういや初めてだな、と思った。何で今更揃えたんだろうなとふいに笑えてくる。 「そこは靴を脱ぐ所じゃないでしょう」  また母親の声がした。でも、さっきみたいに記憶の中から再生されたわけじゃない。  頭の上から聞こえてくる。いや、おかしい。とっくの昔、中二の頃に母親の身長は抜かしているはずだ。  中二の俺が、三十路(みそじ)の俺を見たら、何を思うんだろうな。  見ないほうがいい。お前は、間違えるなよ。 「靴を履きなさい」  見上げた先の空に、手が届きそうだった。 【fin.】
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