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第一話 05
(ああ…いい眺めだなあ…)
前田は、新しく引っ越した豪邸のベランダから、海を眺めていた。
大金を手にした前田は、これまでの汚いボロアパートに別れを告げ、新しい豪邸を購入したのだった。海を一望することのできる高級邸宅、それはまさしく楽園そのものだった。
(こんな広い海があるなら、クルーズ船でも買ってやろうかな…)
ますます、前田は心を躍らせた。
自分は何もしていないのに、こんな豪邸に住んで、高級車に乗って、女も手に入れて。前田は己を莫迦にしてきたあの憎らしい連中に対する優越感に満たされていた。
前田を蔑視し、蔑み、嘲笑ってきたあの連中に。
(まさに形勢逆転だな、はっはっは)
ついこの間までの、惨めな自分が嘘のようだった。
会社では仕事ができないと罵られ、好意を持った楓にはこっぴどく振られた挙句に、それをセクハラ行為だと非難されて辞職に追い込まれ、爪に火を点すような苦しくて情けない毎日を送っていた自分。
それが今や、有り余らんばかりにお金を浪費し、贅沢の限りを尽くしている。
全ては、あの山の化け物鳥のお陰なのだろう。あの鳥は何者なのかは見当もつかないが、自分が封印を解いてしまったという罪悪感はまるでなかった。
(元々あの札、少し剝がれかけていたしな。どうせ俺が開けなくても、あの鳥は勝手に出てきてただろうしな)
今日はこの豪邸に楓を招待していた。新しく引っ越した家にくるか、と訊くと、了解してもらえたのだった。
いずれはここが自分たちの愛の巣になるのだと考えると、前田はにやけが止まらなかった。
(豪邸に、最高の女。俺はもう何もしなくていい。これが勝ち組だよな。あの俺をコケにしやがった負け組集団は、今頃どんな顔してるだろうなぁ…)
前田が恍惚とした表情で海を眺めていると、呼び鈴が鳴った。
「はい、どなたー?」
楓が来たのかもしれないと、踊るように前田は玄関に飛び出した。
しかし、玄関で待っていたのは、麗しい天使ではなく、黒いスーツを身にまとった、人相の悪い男達だった。
「な、何の用です…?」
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