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「ま、まじかよ…」
前田は思わず声が出ていた。
『お前の望みを、叶えてやろう』
低い声は、そう繰り返した。
「どこだ?どこにいるんだ?」
『私は、ここにいる。お前の右の祠にある壺に、私は何百年とこの祠に閉じ込められているのだ。もしお前がこの壺を開け、私を解き放てば、どんな望みでも叶えてやろうではないか』
前田はおっかなびっくりと、自分の右手を確認する。
そこには、自分の背丈と同じくらいの古びた木造の祠が存在していた。若干錆びついてしまっているが、神社の社殿のように切妻屋根構えがあり、きちんと体裁は整えられた祠だと言える。
その下から見える数本の神垂の奥の観音開きの格子戸は開け放たれていて、薄暗い奥に、小さな壺がちょこんと置かれていた。
「この壺を開ければ良いんだな?」
前田が聞くと、壺の中から、そうだ、と声が返ってくる。
壺には何やら物々しいお札が、中の”何か”を封じるかの如く貼られている。
(これって、開けたらヤバいやつなんじゃ…)
前田は躊躇いを見せる。
幾ら何の常識も節操もない前田とはいえ、これには少し戸惑ってしまった。
(過去に誰かが、封印してたってことだよな…それを解くって…)
前田が何もしないで考えあぐねていると、
『何をしている、早く壺を開けるんだ。そうすれば、お前の願いは叶えてやる。あるんだろう?どうしても気に入らないことや、是が非でも手にしたいものが。この壺の封を解くだけでお前の望みは叶うんだ。躊躇う理由など、どこにもない筈だ』
詰め寄るような口調で、壺の声は前田に促す。
(気に入らないことや、是が非でも手にしたいもの、か…)
その言葉が、前田の脳を強く揺さぶった。
「ふん、いいぜ。開けてやるよ」
前田は言うと、貼られていた札を剥がし、勢いよく壺を開けた。
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