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ぱりん、という音が部屋に鳴り響いた。
それは、窓が割れる音だった。
「まさか…」
嫌な予感を、春子は強烈に覚えた。
ぎゃああああああ!
悲鳴が、耳を貫いた。
「陽太!」
春子は居ても立っても居られなくなって、脱兎の如く部屋を飛び出した。
一目散に陽太の部屋へと駆けた。
微かに開いた部屋のドアを押し開け、春子は駆け込んだ。
しかし、時は既に遅かった。
「…そんな、嘘、でしょ…」
狭々とした子供部屋の中心には、体中の肉がもぎ取られて、骨だけになってしまった小さな体が空しく横たわっているだけだった。
そしてその横には、春子を毅然とした態度で見つめる、大きな鳥が佇んでいたのだった。
「…どうして、こんなことを…」
春子は膝から崩れ落ちた。
『お前が、頼んだんじゃないか。大きな声で。この坊やが、憎かったんだろう?復讐できて、良かったじゃないか』
「…そんなこと、私は言ってない!」
春子がそう言うと、巨大鳥はしばらく黙りこくった後、
『ふん、やっぱりお前も、下らない人間なんだな』
と、呆れたような声を出した。
「こんなことをするなんて、許さない。絶対に、許さない」
春子は、ゆっくりと立ち上がり、巨大鳥を睨みつけた。
「この化け物!殺してやる!」
春子は猪のように勢いよく飛び掛かったのだった。
だが、巨大鳥は春子の攻撃を難なく交わすと、ひらりと舞い上がった。
『私はあの山で、生きる意欲さえもないというお前の言葉に興味を持ち、色々と手助けをしてやった。だが、自分の息子だけは生かして欲しいなどと戯言を抜かすのだから、やはりお前も欲望に堕落する愚かな人間に他ならないということらしいな』
淡々と、巨大鳥は続けた。
『欲のない人間がいると思ったんだがな。ああ、残念だ』
巨大鳥は、ゆっくりと部屋に舞い降りた。
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