第三話 01

2/2
前へ
/41ページ
次へ
『おかけになった電話番号は、現在使われておりません。番号をお確かめの上…』 スピーカーから案内音声を発する携帯は、震えていた。 それは、携帯の震えではなく、私自身の、手の震えだった。 (どうして、電話が…) 公園のベンチに、私は座っていた。 待ち合わせの時刻からは、既に一時間が経過していた。 一体正彦に何があったのか。 私は張り切って待ち合わせの時間よりも早く到着したが、一向に正彦は現れる気配がなかった。心配になった私が連絡を試みたが、電話が通じないどころか、何度かけても『この電話は使われていない』というアナウンスが流れるだけだった。 メールアプリもいつの間にか、連絡先の中から消えてしまっている。 先日まで通じていたはずのメールや電話が、突然繋がらなくなっている。 一体なぜ? 彼の身に、何かがあった? それも連絡ができないような、事態に巻き込まれている? 正彦に何かあったのもしれない。 嫌な予感がする。 (とにかく、彼の勤め先に電話してみよう) 私はそう考え、以前に正彦から教えられた勤め先に電話を掛けた。 『はい。こちら××センターでございますが…』 「あの…そちらに、上田正彦さんという方はいますか?」 『上田さん、ですか…?申し訳ありませんが、こちらの把握している限りでは、そういった名前の者は、勤務しておりません』 「えっ…でも…」 私は、思わず携帯を地面に落としてしまう。 (正彦は確かにここに勤務していると言っていた。なら、嘘を吐いてた、ってこと…?) 私は、膨大に駆け巡る己の思考を、処理することができずにいた。 (前からずっと嘘を吐いてたってこと?どうして?) (電話やメールが突然繋がらなくなったのは、どうして?) (正彦は私から意図的に逃げたってこと?私のことが嫌いになったから?でも、どうして?正彦は、あんなに、私のことを…) そこで、思考がふいに止まった。 そもそも正彦は、私に好意など、あったのか…? 私が一方的になっていただけではないのか…? でも、正彦は私をいつも頼って… お金だって、私にしか頼れる人がいないって… 私は、そこでビクッと体が震えた。 (まさか、私、騙されてたの…?) その時、どこからか、バサバサっという大きな羽ばたきのような音が、聞こえてきたのだった。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加