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第二話 02
『久しぶりだな、女よ』
大きな羽を纏った鳥がこちらに向かってくる。
「あなた、騙したのね」
私は震える声で、そう言った。
『お前が望んでいた通り、男を与えてやったではないか。何が不満足だ?』
「違う!私は、私は、こんなの、望んでない!」
私は、全てを理解していた。自分が愛していた正彦は、私のことなど、相手にしていなかった、ということを。私に近づいたのも、優しくしたのも、交際したのも、全ては、お金が目的だったのだ。
『私は、お前の要望に従っただけだ』
大きな鳥は、淡々と言い放った。
その目は、悪意に満ち溢れていた。
「…わざと、こんな仕打ちをしたのね」
私は、初めから騙されていたのだ。何もかも。
願いが叶うなんて、嘘だったんだ。
「…私は、普通の恋愛が、したかっただけなのに…」
かあっと目頭が熱くなるのを感じる。
『人間は、どこまでも欲深いものだな』
私の嘆きには反応せず、鳥は吐き捨てるように言った。
『何もせずに男を得たというのに、まだ多くを望むのか』
気が付くと鳥は、私の真上を飛んでいた。
「…どうする、つもりなの」
『お前を、食べる』
「…どうして、そんなことを…」
『欲望に堕落した人間は、旨いからな。それだけだ』
バサバサっと、鋭い羽音が聞こえる。
私は、逃げるどころか、その場から動くことも出来なかった。
そこには、諦めの感情も含まれていた。
(どうせ私は、誰からも捨てられるだけの人生なんだから…)
私は、ゆっくりと目を瞑った。
ふわりと真上に、風を感じた。
「佳苗ちゃああああああああああん!」
どこからか、愛らしい声が響いた。
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