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第一話 02
「今日も圧巻だったね。夢ちゃん」
依頼者が去ると、私は夢奈にそう声を掛けた。
「えー?別に私、何もしてないよ?」
いつもの通り、夢奈は空とぼけた顔をするのだった。それは謙遜というよりも、本当に何も思っていないようでもあった。
この『怪談相談所』のコンセプトは、『人々から怪談を聞き、必要であればそれに対する適切なアドバイスなどを講じる』というものだ。尤も、そんなアドバイスが出来るのは、夢奈だけなのだが。
夢奈はホラー好きというだけあって、オカルトや心霊の知識を異常な程蓄えている。それ故に、人々が頭を悩ませる心霊現象を見事に解決してしまうのだ。夢奈が繰り出す推理は、まるで探偵のように見る者を圧倒する力があった。
私は、彼女の完全な助手で、アドバイスなどは全く出来ない代わりに、そうした相談者と夢奈のやりとりも含めた怪談を小説として書き起こす、という役目があるのだ。
「あれ、佳苗ちゃん、どっか行くの?」
ペロちゃんキャンディを頬張りながら、夢奈は尋ねた。
彼女はこの『ペロちゃんキャンディ』が大好物で、気が付けば夢奈はこれを舐めている。
「ああ、ちょっと、買い物にね」
私が少しぎこちなく答えると、夢奈は、ふーん、とだけ言ってペロちゃんをなめ続けているだけだった。
私は足早に玄関を飛び出し、相談所を後にした。
(ふう…あの子、めちゃくちゃ鋭いから、怖いんだよねぇ…)
私はそっと胸をなでおろした。
(まあ、悪いことをしてるんじゃないんだけど、ね)
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