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「ゆ、夢ちゃん…?」
公園の中央で、夢奈は何事もなかったかのように立ち尽くしていた。
私は、状況に頭で整理しきれていなかった。
巨大鳥が夢奈に目掛けて思い切り飛び掛かった。しかし、それを夢奈はひょいとかわすと、鳥は出力を失ったかのように地面に墜落したのだった。
(触れることもなく、夢ちゃんはあんな巨大な鳥を倒したの…?)
鳥は、そのまま地面でもがいている。
「私に、勝てるとでも思ったの?」
夢奈はそう言って、ポケットからペロちゃんを取り出した。
『覚えて、いろ…』
そう声が聞こえたかと思うと、地面にのたうち回ってもがき苦しんでいた巨大鳥が、忽然と天に吸い込まれるようにして、消えてしまった。
私はその様子を、ぽかんと口を開けながら見つめているだけだった。
夢奈は鳥に何をしたのか、そもそも今起こったことは何だったのか、全く頭が追い付いていなかった。
「これで、一件落着っと」
ペロちゃんを口に含ませながら、夢奈はこちらにすたすたと近づいてきた。
「いつか、こんなことになるんじゃないかなって思ってたんだよね」
「…」
「佳苗ちゃんが貢いじゃった男も、全部最初から仕組まれてたんだよ。あれは、典型的な結婚詐欺だね」
私は胸がドキリとする。
正彦のことは隠していた筈なのに、夢奈には、全てがお見通しなのだ。
「…そこまで知ってたんなら、言ってくれても良かったのに」
私がふくれた顔を見せると、
「ごめんってば。言おうとは思ってたんだけどね、何か、佳苗ちゃんが楽しそうだったから。それに、浮かれてる佳苗ちゃんを見るの、中々面白かったんだよね。あはは」
「ちょっとー!何それー!?私はずっと夢ちゃんに泳がされてたってこと!?」
「そゆこと。でも、安心して。佳苗ちゃんが渡したお金、全部、私がおもちゃのお金に差し替えといたから」
「えーっ!?」
「だから、ペロちゃんを心置きなく買って良いんだよ?」
私はその返答にずっこけそうになる。
「まあ、私は佳苗ちゃんがどこにいても、何があっても、必ず佳苗ちゃんを守ってみせるから」
夢奈は握り拳を差し出した。
「頼もしいね、夢ちゃんは」
目を潤ませながら、私はゆっくりと、握り拳を差し出して、夢奈の小さな拳に合わせた。
公園に射し込んだ夕陽が、二人を朱く照らした。
「さあ、相談所に帰ろう、佳苗ちゃん」
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