第一話 02

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「ああ、佳苗、来たんだね」 都内の噴水公園で待っていたのは、正彦だった。 「ごめーん、ちょっと遅れちゃったー」 私は手を合わせ、ぺこりと頭を下げた。 「いいよ、待ってないし、全然。今日も可愛いね、佳苗」 その言葉に、私は急激に鼓動が早くなるのを感じる。 普段は適当なメイクと服装でしか出歩かない私が、唯一整った身だしなみをするのが、この正彦と会う時だった。 出会いは一か月前のことだった。何気なくチラシに書かれていた講演会に行った時、私は正彦と出会ったのだった。講演自体は本当に下らないもので、完全にうとうととしてしまっていたのだが、途中で、隣の男性に声を掛けられたのだった。 私に声を掛けた男性は、何故こんな講演会にいるんだ、というくらいのまさに”超”が何個も付きそうなイケメンだったのだ。途端に胸がときめいた私は、講演の内容などそっちのけで、彼と声を潜めて他愛もない話をした。 そして、『後で食事でも行きませんか』と誘われたのだった。 話をする中で、正彦と名乗る彼は、高学歴で一流の企業に勤めており、しばらくの間女性と交際していないことも分かった。何より印象的だったのは、とにかく彼は紳士的で優しかったことだ。 単純な私はすぐに彼に心を奪われ、向こうもかなり好意的な態度を取ってくれているように思えた。実際、三回目のデートで彼に告白され、私はすぐにそれを受け入れ、交際が始まったのだ。 彼は結婚を前提に、という付き合いを私に申し込んだ。私自身も世間的にそろそろ結婚しないとまずいといった年齢に差し掛かり、少し焦り始めていた頃合いとタイミングもばっちりだったことから、ああ、この人が運命の人なんだな、と浮かれに浮かれていたのだった。 「それで、今日、話があるって言ってたけど、どうしたの?」 「実は…言いにくいことなんだけどさ、ちょっとだけお金を貸して欲しいんだ」
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