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第一話 03
前田は恐ろしい程に手が震えていた。
(金が、金が、マジに振り込まれてるじゃねえか…!)
全くお金の気配などなかった前田の通帳には、見たこともないような金額が本当に振り込まれていたのだった。
(まじかよ…)
正直、前田は全く信用などしていなかった。あんな胡散臭い鳥のことなど…
記憶は今日の夕方に遡る。
躊躇しながらも前田が壺を開くと、中から現れたのは、とてつもなく巨大な、鷹とも鷲ともつかないような、化け物じみた鳥が出現したのだった。
『よくやった。約束通り、お前の願いを叶えてやろう。さあ、望みを言え。ただし、望みは一つだ。いくつも叶えることはできない』
鳥は壺から出てくるなり、そう言った。
前田の頭には、様々なことが駆け巡ったのだった。
女、地位、カネ、名誉、権力…
前田は、そんなことしか頭になかった。
「金だ!金をくれ!100億くれ!」
前田は当たって砕けろの精神で、そう叫んだ。こんなことで100億なんてお金が手に入れば値打ちものだ、と。
『良いだろう』
大きな鳥の化け物は、そう言うと、どこかに飛び去ってしまった。
だが、いくら待ってもお金は降ってこないし、札束が詰められたスーツケースも見えない。
(何だよ、嘘だったのかよ…)
前田は肩を落とした。
(結局、あの鳥の化け物は自分を逃がして欲しかっただけかよ、つまんねぇなぁ…)
前田は途端に馬鹿らしくなり、溜息を何度もつきながら、山を下りたのだった。
とはいえ、完全に騙されたと思いながらも、僅かな期待を込めて、前田は通帳を確認したのだった。
すると、本当に100億という大金が振り込まれていたのだから、驚くのも無理はない。
(本当に、俺は手に入れたんだ…100億を、何もしないで…)
体中の身震いが止まらなかった。
同時に、前田の脳内では一気に妄想が広がる。
(この金さえあれば、めんどくせえ仕事もしなくて良い。どでかい家に住んで、どでかい車に乗って…)
前田の興奮は収まらなかった。
(どうせなら、もっと高い金額を要求しとくんだったな)
そんなことを考えていた時だった。
知らない番号から、電話が掛かってきたのだった。
「もしもし?」
『こちらは、保険会社の者です。前田久志さんのお子様でございますか?』
「はい。そうですけど…」
『…非常に申し上げ難いのですが、お母様とお父様が、交通事故で亡くなられました』
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