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第一話 04
「お金が、必要なの?」
「うん。ほんとに申し訳ないんだけどさ、俺の祖母ちゃんが入院しててさ。その入院費が馬鹿にならなくて」
正彦は摯実な面持ちでそう言った。
「そうなんだ…でも正彦君くらいの給料なら、自分で払えないの…?」
「それが、一気に用意するのはどうしても無理なんだ」
窮した表情の正彦。
「俺さ、両親が早くに亡くなってさ、ずっと祖母ちゃんに育てられてきたから、どうしても放っておけなくて」
私は胸が苦しくなった。こんな明るくて優しい正彦に、そんな辛い経歴があっただなんて。
「でも、俺、誰もお願いできる人がいなくて。両親もいないしさ。だから、佳苗だけが頼りなんだ」
正彦は、射すくめるように、私の目をまっすぐと見つめた。
いつも活気に溢れた正彦とはかけ離れたその表情に、私は胸を動かされた。
(私はいつも正彦に元気をもらって、助けてもらってる。そんな彼が困っているんだから、今度は私が正彦を助けてあげなきゃ)
「いいよ。いくら必要なの?」
「本当にいいの?」
「うん。正彦の為だから」
「ありがとう。30万くらいあれば十分だから。給料が入ったら、すぐ返すから安心して」
誠実に、正彦は言ったのだった。
私は正直、30万という額にはどぎまぎとしていた。相談所は基本的に依頼料を取らず、収入のほとんどは小説由来のものになっているため、私の貯金は多い筈もない。そんな中では、30万という額はそれなりに大きな数字になるのだ。
(でも、これは正彦のためだし…)
私は、心に固く念じた。
「30万だね。分かった。ところで今日は、どっかデートしに行く?」
「ああ、ごめん。今日は祖母ちゃんの見舞いに行くって約束してるから…」
「そっか。お大事にね」
私は少し残念だったが、家族思いの正彦を見ていると、胸が温かくなるのを感じた。
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