序章

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序章

「ねえ佳苗ちゃん。『願いが叶う山』って知ってる?」 ソファに座りながら、夢奈は言った。 「何それ?バカみたいな恋愛小説?」 「あはは。佳苗ちゃんはそういうの大っ嫌いだもんね。自分がモテないから」 まだ小学生だというのに、夢奈の皮肉は遠慮がまるでない。 「あのねえ、夢ちゃんみたいなお子ちゃまには分かんないだろうけど、私だっていっぱい恋愛してるんだからね!」 「ほんとにぃ?」 悔し紛れに言った私を更にからかうように、嫌味ったらしい口調で夢奈は私の目を覗き込む。 この怪談相談所ではこうしたふざけ合いが、頻繁に行われている。 ことの始まりは、夢奈の言葉だった。私はネットで小説を細々と投稿しているのだが、全く閲覧数もつかない、まさに一銭の得にもならない趣味だった。ファンタジーを書いても、本格的なミステリーを書いてもダメ。 そんな時に出会ったのが夢奈だった。血の繋がりはなかったが、彼女は色々あって昔からよく遊んで懐いていた私のところへ転がり込んだのだ。私は子供は嫌いではなかったし、何より夢奈は一緒にいて何だか楽しかった。 そんな彼女が好きなのが、ホラーだったのだ。彼女は私が小説を書いているんだという話をすると、半ば強制的にホラーを書かされた。しかし、私が苦心して書いたホラーは納得してもらえず、作り物ではなく本物を集めようという話になり、そして怪談蒐集のために『ホラー好き少女と三流小説家による怪談相談所』を開いたという顛末だ。 「それはいいとして、で、その願いが叶う山っていうのは、何なの?」 「なんかねー、ネットで最近話題になってるらしいよ?何でもそこは、地図にも載っていないような山らしいんだけど、そこに行けば、どんな願いでも叶えてくれるんだってさ」 「ふーん。怪しさ満点だね。どうせ山に行ったらとんでもない詐欺集団に引っかかるとか何じゃないの?」 「かもね。少なくとも、良い話ではなさそ」
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